2019年09月05日 13:30 〜 15:00 9階会見場
「朝鮮半島の今を知る」(32) 徴用工問題と国際法 阿部浩己・明治学院大学教授

会見メモ

国際法、国際人権・難民法を専門とする阿部教授が、1965年の日韓請求権協定をめぐる日本と韓国の解釈の変遷を整理し、「日本の最高裁は『個人請求権が消滅とはしていない。裁判に訴えることができない』として裁判外での解決を促している」と解説。

「国対国ではなく個人対国の問題。被害を受けた人にどう賠償するかという視点で日韓が話し合うことが解決への道筋」とした。

明治学院大学国際学部教員紹介

 

司会 五味洋治 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

被害者中心の立場で解決を

佐々木 真 (時事通信社解説委員)

 「国交正常化以来、最悪」とも言われる日韓関係。今回の対立の引き金となった元徴用工裁判について、国際法の専門家、阿部浩己明治学院大学教授に聞いた。

 徴用工問題は植民地統治下でのその実態や1965年の日韓請求権協定、その後日韓で争われてきた幾つもの裁判、さらに日韓政府の立場など考慮すべきことが膨大にあり、極めて複雑で、理解が難しい事案だ。この難題について、阿部教授は各種判決や両国政府方針などを分かりやすく紹介。被害者中心のアプローチという新しい国際法の潮流に沿って、徴用工問題を日韓の国家間の問題ではなく、被害者対国家で捉えるべきだと訴えた。

 ポイントは1)請求権協定で「完全かつ最終的に解決」されたものに、植民地支配責任の問題は含まれていない2)日韓政府(裁判所)共に、個人請求権について立場を変遷させてきた3)植民地支配責任で日本は「合法で正当」から「合法で不当」の方向に姿勢を転じてきた―こと。これらを踏まえて、昨年10月の韓国大法院(最高裁判所)判決について、日本政府が「国際法に違反している」と主張していることに対しては、否定的な考えを示した。

 それではこの問題をどう解いていくべきだろうか。阿部教授は国際法には解決と亀裂の両方の道筋があると指摘。もし解決を選ぶならば、個人請求権について日本の最高裁も裁判外での解決を促していることや、日中間の同種裁判では和解に応じた日本企業があったこと、日本も植民地支配責任の不当性までは認めていることなどを挙げて、方向性を指し示した。

 徴用工問題では日韓の政府、政治学者などを主な取材対象にしている筆者には視野を広げる意味で有意義な会見だった。だが、理解が難しい部分もあった。阿部教授は「パンドラの箱はとっくに開いた」と語ったが、そこに希望が残っていてほしいものだ。


ゲスト / Guest

  • 阿部浩己 / Kohki Abe

    日本 / Japan

    明治学院大学国際学部教授 / Professor, Meiji Gakuin University, Department of International Studies

研究テーマ:朝鮮半島の今を知る

研究会回数:32

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