2019年04月05日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「平成とは何だったのか」(19) 井上亮・日本経済新聞編集委員(皇室、近現代史担当)

会見メモ

司会 土生修一 日本記者クラブ事務局長


会見リポート

「革命」の原点は強い意志

伴野 昭人 (北海道新聞社東京報道センター編集委員)

 平成の天皇像が鮮明に浮かんでくる会見だった。冒頭で紹介された言葉が印象に残った。2月に亡くなったジャーナリストの松尾文夫さんは、天皇と同級生で親友だった。生前、松尾さんは「わが友は強い男だ」と繰り返し語っていたという。

 天皇の強い意志こそが、皇室内にあって「革命的なこと」を実現させてきたとみる。その一つとして美智子さまとの結婚を挙げる。この時の決断が成功体験となり、後に守旧派から批判されようとも平成流のスタイルを貫く原点になったと分析した。

 「天皇の歴史で恋愛結婚したのは初めてだった。庶民から美智子さまを選んだことが、平成の象徴天皇制のあり方に大きな影響を与えた」

 戦後の象徴天皇制が想定したのは「ロボット天皇」だったと考える。象徴の中身は「空」で、地位を与えながらも役割がない。その矛盾に今の天皇はあらがい、象徴天皇像を自ら練り上げてきた。「近代以降の天皇のあり方の非人間性をじっくり見ていた。皇太子時代から自分なりのやり方を考えてきた」と指摘した。

 長年の皇室取材の中で、最も感動したのは即位20年の会見だったという。事前に予告のない関連質問で「日本の将来にご心配をお持ちでしょうか」と問われ、天皇は「過去の歴史が忘れられていくのが心配です」と述べた。井上さんは「ああ、ここか。象徴の仕事で一番の柱は戦争の歴史にあると思った」と振り返った。

 井上さんは、昭和天皇が富田朝彦宮内庁長官に靖国神社のA級戦犯合祀に不快感を示したことを記した「富田メモ」のスクープで、2006年度の新聞協会賞を受賞した。

 平成の天皇が靖国に行かなかった理由について、「天皇は過去の歴史を忘れてならないと言う時、必ずその前に『正しい』という言葉が付く。実証的に歴史を学ぶことを意味する。靖国の発信する歴史観が問題なんだと思う」と答えた。


ゲスト / Guest

  • 井上亮 / Makoto Inoue

    日本 / Japan

    日本経済新聞社編集局編集委員

研究テーマ:平成とは何だったのか

研究会回数:19

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