2017年08月08日 10:15 〜 11:30 会見場
「体験的ジャーナリズム論」 ジャーナリスト 滝鼻卓雄氏(元読売新聞東京本社社長)

会見メモ

司会 瀬口晴義 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

体験的ジャーナリズム論

●真実の伝え方

「書くことによって得るニュース価値の重み。見送ることで生じるジャーナリズムの不利益」―。1枚の写真の掲載をめぐり、下した決断の言葉が胸に響いた。

滝鼻さんは1980年代、神奈川県内の市長が米軍の艦船上で機関銃を発射した様子を捉えた写真を入手。取材相手は「肖像権と著作権」を訴え、記事と写真の掲載見送りを迫った。しかし、ニュース価値の重みを重視し、掲載に踏み切った。

日ごろ、警察取材、民事訴訟を担当し、「書くか、書かないか」で悩むことの多い私にとって視界が開けたように感じた。

この他、少年犯罪での匿名報道への懸念や「容疑者」の呼称が付いた頃から始まった「生煮えの報道」など30年に及んだ記者生活での体験を基にした持論を展開した。

前打ち報道の価値を尋ねた質問には「キャッチした正確な情報を一日でも早く報じるのは活力の原点。隠したがる捜査側との競争だ」。日々、夜討ち朝駆けに追われる私は活力を与えてもらった。

山梨日日新聞社報道部 仲澤 篤志

 

●2年生記者が受け止めたこと

「ジャーナリストは塀の上を歩かなければならない」――読売新聞で長きにわたり記者として活躍した滝鼻氏は冒頭、こう述べた。

「塀」とは刑務所の高い塀のこと。その上を歩いて決して内側に落ちてはいけないが、だからといって外側だけを歩いていては真のネタは拾えないという意味である。合法/違法、公正/不公正などの境界線の上を歩き、慎重に取材を重ね、価値のある〝真実〟を伝えるべきだと語った。

この後、匿名報道の是非に触れ、匿名、実名の判断はメディアがするものだと述べた。近年はプライバシー保護等の観点から公権力による匿名発表が増えているとした上で、記者は、危険を冒してでも公権力の匿名主義を乗り越える努力が必要だとした。

記者の使命は真実を世に伝えること。真実に迫ることは簡単なことではないが、塀の上を歩き続けなければ真実は見えてこない。

塀の上を歩き続けてきた大先輩の一つ一つの言葉は、記者生活2年目の〝駆け出し〟の私に記者の在り方を示してくれた。

チューリップテレビ報道制作局

越 大地

 

●従来の価値観からの解放を

全国の取材現場で仕事をしている新聞社、放送局の記者のみなさんの前で、私流の取材、報道の在り方を話す機会をいただいたことに、深く感謝しています。

最も強く感じ取ったことは、それぞれの記者が深い悩みを持っていることでした。会場での質問や個別に接した際の問いかけで感じました。悩みや疑問の内容はさまざまでしたが、共通することは、取材相手との距離感に関する〝もがき〟のような苦しみ、あるいはそれを解決できない戸惑いでした。

突っ込んで言うと、人物、組織、場所を実名で報じる勇気、最後までニュースソースを保護する倫理、事件の背景あるいは事件の発生原因をどこまで追い詰められるかの覚悟、そして公権力が隠し通そうとする「不都合な真実」に迫る取材力などが、記者の苦しみとなって表現されていました。

Political Correctnessという、建前だけの倫理感はもう見直す時でしょう。なぜなら、記者自らが苦しみの中から書いた、創造的なニュース価値が生まれないからです。研修会に出席したすべての記者が、従来の価値観から解放され、独自のニュースを発見することを心底より期待しています。

滝鼻卓雄

 


ゲスト / Guest

  • 滝鼻卓雄

    ジャーナリスト・元読売新聞東京本社社長

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