2017年08月29日 14:30 〜 16:00 10階ホール
著者と語る 『現代日本の地政学』

会見メモ

同書は一般財団法人日本再建イニシアティブ(RJIF)が企画。外交・安保、貿易、サイバーセキュリティ、気候変動、米国内政など13項目のリスクを選び、若手研究者や専門家ら15人が執筆した。そのうち寺田貴同志社大教授、神保謙慶大准教授、同財団の船橋洋一理事長、加藤洋一研究主幹が登壇した。

同財団は7月に改組し、RJIFを中核に一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブと名称を変更した。

 

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)

写真 左から加藤、神保、寺田、船橋氏


会見リポート

ポスト「フラット化する世界」の課題とは 「地経学」の視点に新しさ

大石 信行 (日経CNBCチーフ・デジタル・オフィサー、シニアコメンテーター)

「地政学」ブームである。書店には「地政学」本が並び、私が身を置く経済・マーケット報道の中でも、地政学という言葉を使わない日はまずない。今回の「著書と語る」のテーマとなった『現代日本の地政学』もそうしたブーム本の一つかと思ったのであるが、他の書籍とは大きく違うという。

 

本書を執筆した「日本再建イニシアティブ(現・アジア・パシフィック・イニシアティブ)」研究チームの座長、神保謙氏(慶大准教授)によれば、経済的手段で地政学的目的を達成しようとする「地経学」的な視点を持って、「安全保障や通商、デジタル革命、サイバーなどの領域での地理をとらえなおした本」である。

 

フラット化されたと思われていた世界に「地理」の視点を改めて取り入れた本書は 「地政学2.0」を示したといえそうだ。

 

会見があったのは8月29日。北朝鮮が弾道ミサイルを発射した日だ。北朝鮮のミサイルも「脅威の距離を縮める」(神保氏)との形で、従来の地理的空間の変化を象徴する例なのだろう。企画した船橋洋一氏(同財団理事長)が指摘するように、従来の地政学ではカバーしきれていなかったさまざまな変化が起きている。気候変動によって変わる「オホーツク海の戦略的意義」、シェール革命が生む「ロシア・アメリカ・中国よるエネルギー三国志」、「ユーラシアにおける地形学的・地政学的ドラマ」、元来オープンだったサイバー空間の「モザイク化」――。「日本はリスクの海に囲まれている」(船橋氏)。こうした変化は今後、宇宙や深海といった分野にも広がっていくのではないだろうか。

 

そもそも、こうした変化の根底には、①グローバルなパワーバランスの変化②国家資本主義の拡大③民主主義の後退――という「3つの潮流」があり、「これまでの国際的な約束事である自由で開かれた国際秩序(リベラルインターナショナルオーダー)がチャレンジを受けている」(神保氏)。まさに地政学・地経学からの挑戦である。

 

日本はこうした地政学・地経学から突き付けられた挑戦に、いかにして立ち向かうべきなのか? 加藤洋一氏(同財団研究主幹)は「日本が守ろうとしている秩序が成功の処方箋となることを実例を持って示す」ことが、効果的な対抗策であると話す。

 

具体的に何をするのか。それほど簡単な話ではないが、寺田貴氏(同志社大教授)の言葉の中にヒントがあるように思えた。

 

同氏は、国際関係論においてリアリズムの立場をとり、ソフトパワーやクールジャパンに興味がなかったとする。しかし、アジアを回る中で「10年前と比べ、日本が好きだ、日本に行った、休暇があれば日本に行きたい人が増えていると実感する」。そこからの分析が興味深いのだが、中国の台頭が背景にあるという。日本人の価値・生き方が中国人のそれと比較され、「日本のソフトパワーは『中国の時代』に花開いていく」。

 

案外、日本の存在感は高まるかもしれない――。そんな希望を与えてくれた。


ゲスト / Guest

  • 寺田貴 / Takashi Terada

    日本 / Japan

    同志社大教授 / Professor, Doshisha University

  • 神保謙 / Ken Jimbo

    日本 / Japan

    慶応大准教授 / Assistant Professor, Keio University

  • 船橋洋一 / Yoichi Funabashi

    日本 / Japan

    一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長 / Chairman, Asia Pacific Initiative

  • 加藤洋一 / Yoichi Kato

    日本 / Japan

    一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ研究主幹 / Senior Research Fellow, Asia Pacific Initiative

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