2017年03月02日 16:00 〜 17:00 9階会見場
ウィリアム・レイシー・スウィング 国際移住機関(IOM)事務局長 会見

会見メモ

82歳の老外交官はいまの世界を「パーフェクト・ストーム」(大嵐)と表現した。10億人が国境を越えあるいは国内で移住している。「移民について否定的で有害な議論が多い。メディアは移民が歴史的にプラスだったと議論の方向を変えるべきだ」と注文した。

 

司会 ヴィーラント・ワーグナー 日本記者クラブ企画委員(独シュピーゲル誌)

通訳 澄田美都子(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

パーフェクト・ストームを抜け出るための課題

二村 伸 (NHK解説委員)

世界の移民は約10億人。うち2億4000万人が国境を越えた移民で、これはインドネシアの人口より多く、世界6番目の国に相当する。人類が直面する喫緊の問題だが、状況は悪化し続け、『パーフェクト・ストーム』(複数の厄災が同時に起こる破滅的状況)の真っただ中にあるとスウィング事務局長は警告した。中東やアフリカで紛争や災害が相次ぎながら解決に向けた取り組みが遅れ、欧米では移民や難民をはじめ外国人に対する嫌悪感が強まり、政府も排他的な動きを抑えられない。そうした状況を懸念した発言である。

 

米国生まれの82歳。ベテラン外交官である。国際移住機関(IOM)トップとして9年間、貧困や差別から逃れ新天地を目指す声なき人々のために世界を飛び回る精力的な活動の源泉は、ナイジェリアやコンゴ民主共和国などアフリカ各国で大使を歴任、アフリカ最後の植民地と言われる西サハラで国連PKOの団長を務め、過酷な現実を自らの目で見つめ、肌で感じとった体験にあるのだろう。

 

では『パーフェクト・ストーム』からどうやって抜け出すのか。スウィング事務局長は、克服すべき4つの課題を挙げた。1つは「災害や紛争など人道危機と気候変動への対応」。2つ目は「人口動態の変化への対処」。人口が減少し労働力が不足する先進国に若年層が増え続ける途上国から移住を進めること。3つ目に「多様性のある社会形成のための広報・啓蒙活動」。4つ目が「幅広い議論」だという。移民や難民に関する議論が負の側面から捉えられているとして、移住が歴史的にもプラスの影響をもたらしてきた事実に基づいた議論を訴え、メディアの責任にも言及した。

 

昨年9月の国連サミットで難民・移民の保護を強化するための「ニューヨーク宣言」が採択された。しかし、欧米ではそれに逆行する動きが続いている。「欧州は難民を出す側だったことを忘れている」。移民・難民受け入れに慎重な首脳たちへの苦言である。


ゲスト / Guest

  • ウィリアム・レイシー・スウィング / William Lacy Swing

    国際移住機関 / IOM

    事務局長 / Director General

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