2017年01月24日 14:00 〜 15:30 9階会見場
著者と語る 開高健ノンフィクション賞受賞作 『マラス 暴力に支配される少年たち』 工藤律子 ジャーナリスト

会見メモ

追い詰められた子どもの居場所となった若者ギャング団「マラス」。ホンジュラス現地の丹念な取材が開高健賞に結実した。「カネがないと存在価値がない。そんな金権主義は若者組織にもはびこっている」。26年間続けたストリートチルドレン取材の成果でもある。

 

司会 中井良則 日本記者クラブ顧問


会見リポート

国境へ、暴力からの逃走 マラス離脱衝撃の実態

橋詰 悦荘 (時事通信社編集局次長)

ジャーナリストの工藤律子さんはメキシコ貧困層の生活改善運動を大学院で研究したことを出発点として、現在はフィリピンを含めたスペイン語圏をフィールドに取材活動を展開している。取材対象の中心は、貧困の象徴ともいえる「ストリートチルドレン」。2016年開高健ノンフィクション賞を受賞した著書『マラス』は、中米ホンジュラスにはびこる若者ギャング集団から命懸けの離脱を図るメンバーの衝撃の体験を聞き取ったリポートである。

 

ホンジュラスは10年以来、5年連続で殺人事件発生率世界一という不名誉なレッテルを貼られた国だ。人口810万人。これに対し、若者ギャングで構成される組織的犯罪者集団マラスは3万人を超す。日本で例えれば、大阪府の人口(880万人)に対し、全国的広がりを持つ6代目山口組、神戸山口組、住吉会、稲川会の主要団体4組織の構成員数(3万3000人)に当たる。この比率では、大阪府警だけでは太刀打ちできないだろう。ホンジュラスでは近年、軍が直接、麻薬犯罪撲滅に乗り出し、力による封じ込めを展開する。この結果、マラスがさらに先鋭化する。負のスパイラルに陥っている。治安の底はとっくに抜け落ちた状態だ。

 

都市部のスラム街に学校教育の浸透を期待することはできない。家庭に居場所のない子どもはストリートチルドレンとなる。生存のためマラスに入ることはごく自然でもある。入るのは簡単だが、抜け出すのは大変だ。いったん目覚めた少年が、組織から追い詰められ、米国国境を目指す脱出旅行を命懸けで試みる。

 

工藤さんが取材を始めたのは、大統領選期間中のトランプ氏の「国境の壁発言」がきっかけだった。大統領の一国保護主義。これに対し自由貿易を主張するグローバリズム。違和感が消えない。「どちらも格差の存在を前提にしているとしか見えない」と言う。


ゲスト / Guest

  • 工藤律子

    ジャーナリスト

研究テーマ:著者と語る 『マラス 暴力に支配される少年たち』

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