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自分にできることは何か(時事通信社 竹井路子)2012年3月

地震発生から3日後の14日未明、宮城県女川町に入った。心に残ったのは避難所で撮影し、アプローチや取材姿勢を考え直すきっかけとなった被災者の写真数十枚だ。入社3年、私にとって初めての災害取材。普段のお膳立てされた現場に慣れた自分に不安はあったが惨状を伝えたいという使命感に燃えた。

 

ところが初めて入った避難所で被災者の視線を一斉に浴びカメラを下げた。「いきなり来て無遠慮にカメラを向けるな」と言っているような目にたじろいで立ち尽くし、その日はろくにシャッターを切らずじまい。

 

撮影どころの雰囲気ではない中、写真で自分にできることはないかと考えた。当時、現場では電話が通じず多くの人々が家族や親戚と連絡が取れない状況。そこで被災者の集合写真を自社サイトに安否情報として掲載できないかと企画し許可を得て実行した。

 

思いがけず、このことが被災者との距離を縮める結果に。「元気な姿をウェブに掲載しませんか」。そんなやり取りを通して人々が思い口を開いてくれ自然な雰囲気で撮影できるようになった。心を解くには時間を要し迅速さを求められる写真記者にとって難題。極限の状況に置かれた人を前にどうアプローチすればよいかに悩み模索の連続だった。

 

(たけい・みちこ 写真部/2008年入社)

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