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十字架を背負って(読売新聞社 高倉正樹)2013年3月

なぜ震災に関わりつづけるのか。阪神大震災の時、新聞社の神戸支局デスクで、今は復興研究に携わる大学教授に尋ねたことがある。「あの時から十字架を背負ったんです」という答えだった。

 

私も仙台の記者として東日本大震災を経験し、被災地から報道を続けている。

 

現場の課題や復興の歩みは日増しに見えにくくなっている。震災後しばらくは記者が見聞きしたことがそのままニュースになった。しかし、今後の大切なテーマは、まちづくりや浸水土地の活用など、変化に乏しく、短期的な視点では伝えきれないことばかりだ。人口流出もじわじわと進む。

 

課題が見えづらくなると同時に、行政に比重を置いた取材が増えたが、震災報道はやはり被災者の苦悩や問題意識から出発すべきだと思う。本紙宮城版の連載「歩み」は6カ所の定点観測地点を選び、人々の声を毎月拾い続けてきた。声の一つ一つが重くのしかかり、また次の取材に駆り立てる。それが十字架の重みなのかもしれない。

 

これからも被災者の声に耳を傾けたい。

 

(東北総局編集委員)

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