2026年03月26日 14:00 〜 15:30 9階会見場
著者と語る『戸籍の日本史』遠藤正敬さん(早稲田大学等非常勤講師)

会見メモ

遠藤正敬さん(早稲田大学等非常勤講師)さんが、律令制のもとで誕生した戸籍が、明治維新において再編・復活し、今日まで運用されてきた過程をたどり、戸籍が単なる行政制度ではなく、「日本人」を規定する構造として機能してきたことを指摘した著書『戸籍の日本史』(集英社インターナショナル、2025年10月)の記述を中心に話した

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

「選択的戸籍制」を提案

吉井 理記 (毎日新聞社オピニオン編集部)

 遠藤さんが講師をつとめる大学でのこと。学生に「戸籍は何が書いてある?」と聞くと、返ってきた答えが「んーと、住所……?」

 賢明な読者にはおわかりだろうが、それは住民票である。戸籍にあるのは親の名前、続柄、本籍、出生地などだ。本書にはトセキと読んだ、という学生のエピソードも登場する。戸籍はそれほど日常から遠い。

 戸籍とは、つまり何か。

 会見で遠藤さんは「国家と個人との権力関係を示すもの」とまとめてみせた。

 詳細は本書をお読みいただきたいが、本邦初の戸籍は中国式の律令国家を目指した奈良時代に作られた。丸めて言えば、徴税や労役のための住民台帳である。

 それから千年近くを経て、明治政府が戸籍を復活させるわけだが、古代の住民台帳的なそれとは性格を大きく変える。それまでの「藩(殿様)―民」から、「国家(天皇)―国民」へ、人々の意識を組みかえるツールとされた、というのが本書の大要だ。

 この戸籍が戦前の家制度のベースになったのはご存じの通り。戸籍の筆頭には「戸主」が記され、姓を同じくする家族を監督・支配した。「赤子」たる臣民が、天皇を「家長」として仰ぎみることが求められたように、戸主に求められたのは家族内の「ミニ天皇」「国家の出先機関」という役割である。この力学を国家登録した文書が戸籍、というわけだ。

 戦後に家制度は廃され、戸籍も形を変えたが、会見では、さらに遠藤さんは「日本人の感性を縛っている」と分析してみせた。選択的夫婦別姓が実現しないのも、戸籍が「家族は姓を同じくするもの」といった家族像で今なお人々を根強く縛るゆえだろう。

 今やマイナンバーの時代である。戸籍は血統や本籍地による差別を生む温床にもなりかねない。戸籍の存続を望む人は維持し、不要と考える人は役所に申告して廃棄する。名付けて「選択的戸籍制」。ちょっと刺激的な、遠藤さんの提案である。

 


ゲスト / Guest

  • 遠藤正敬 / Masataka ENDO

研究テーマ:戸籍の日本史

ページのTOPへ