2025年02月06日 14:00 〜 15:30 9階会見場
「中国で何が起きているのか」(24) 鈴木隆・大東文化大学東洋研究所教授

会見メモ

中国の習近平国家主席が最高指導者の地位に就いてから10年以上がたつ。しかし、どんな人物で、なぜ中国共産党の頂点に立てたのか、いまだにわからないことが多い。膨大な資料を読み込み、習氏の実像に迫った『習近平研究』(東京大学出版会、1月28日発売)を上梓した鈴木隆・大東文化大学教授に話を聞いた。

 

司会  高橋哲史  日本記者クラブ企画委員 (日本経済新聞社)


会見リポート

「屈辱の近代」から「中華民族の偉大な復興」へ

吉岡 みゆき (読売新聞社国際部)

 1月末に『習近平研究――支配体制と指導者の実像』(東京大学出版会)を上梓したばかりの鈴木隆・大東文化大学東洋研究所教授が、「習近平の政治家像とリーダーシップ、台湾問題をめぐる政治認識」と題して、著書のエッセンスを交えながら会見した。

 冒頭では、習氏が2018年6月に山東省威海市劉公島の北洋艦隊砲台跡を訪問したことを紹介し、「習氏は『屈辱の近代』に対する歴史のあだ討ちのようなものを心の中に持っている。その大きなトゲの一つが、日清戦争での北洋艦隊の惨敗だというのが一つの仮説だ」と述べた。日清戦争後に調印した下関条約(1895年)で清国が台湾を日本に割譲したことを、習氏は「中国近代史の不名誉」と捉え怒りを抱いており、「台湾問題を解決することで東アジア近代史を総決算する」ことを目指している可能性があると分析した。

 習氏は、台湾の対岸にあたる福建省で約17年間勤務した経験がある。鈴木氏は「習氏は、台湾海峡で危機があるたびに出世した。成功体験になっており、そのまま台湾を放っておくとは考えづらい」と語り、台湾統一への思いは強いとの見方を示した。

 台湾海峡では、中国軍が頻繁に軍事演習を行っている。鈴木氏は、習政権の支持者の中に「軍功をあげて昇進したいと思っている中堅から下の将校」や「ナショナリズムに強く感化された人びと」がいることなどに触れ、習氏の健康状態といった政治的前提条件に変化がなければ2030年代の台湾有事(台湾海峡戦争)の発生可能性は高い、と指摘した。

 台湾海峡の安定のカギは、「習氏のリスク判断をどう私たちが変えていけるか」だと解説した。つまり、武力発動すれば、共産党の支配体制維持や、中国が米国に代わって覇権国になるという目標がかなわなくなると、日本などが習氏に判断させるということだ。そのためには、日米、台湾を中心とした抑止力の強化が重要だと訴えた。同時に、外交努力によって一般の中国人の安心感を損なわないようにすることも求められるとした。


ゲスト / Guest

  • 鈴木隆 / Takashi SUZUKI

    大東文化大学東洋研究所教授 / Professor of The Institute of Oriental Studies, Daito Bunka University

研究テーマ:中国で何が起きているのか

研究会回数:24

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