会見リポート
2025年01月24日
13:30 〜 15:00
10階ホール
「2025年経済見通し」(2) 渡辺努・東京大学大学院教授
会見メモ
渡辺努・東京大学大学院教授が「賃金・物価・金利の正常化 現状と展望」と題して登壇。現状について「デフレから本格的に脱却し、活力ある経済に移る道筋がようやく整った」と述べた。
正常化に向けた動きが進んだ背景として「消費者によるインフレ予想が大きく高まった」「女性や高齢者の労働参画が進んだことにより、追加的に労働力が供給される余地がなくなった。労働力不足が表面化し、強気の春闘を行いやすくなった」――という2点を挙げた。今後好循環が継続するかは「インフレ予想が2%程度あがること」「ベースアップ3%(5%の賃上げ相当)が毎年実現すること」がカギになるとした。
「デフレ脱却を宣言してもよいのではないか」との問いには「デフレ脱却ではないと思う。慢性デフレに戻るリスクもそれなりにある」と回答。インフレとスライドできず、年金が目減りするシニア層や価格転嫁することに自信がない中小企業のオーナーなど人数でいくと(慢性デフレへの)支持者は多く、「慢性デフレ時代へのノスタルジーが日本社会には非常に強く残っている」。
研究会当日、日銀はマイナス金利脱却後3回目となる利上げを決定した。渡辺さんは、日銀が利上げを判断した背景などにも触れた。
司会 播摩卓士 日本記者クラブ企画委員(TBS)
会見リポート
「インフレを知らない私たち」
中西 拓司 (毎日新聞出版・週刊エコノミスト編集部 編集委員)
この四半世紀の日本は、賃金も物価も上がらない「慢性デフレ」の状態が続いた。慢性デフレとは、各企業は商品価格を据え置く→消費者の生計費は変わらず→労組は賃上げ要求をせず→企業は人件費の価格転嫁しない――といったサイクルだ。
慢性デフレ下では、企業は後ろ向きのコスト削減に腐心しがちで、新しい商品やサービスの開発といったイノベーションや成長は生まれにくい。渡辺氏はこうした循環を「日本版スパイラル」と位置づけ、物価と賃金の好循環を進める重要性を指摘した。
そのカギは、2025年の春闘にあると強調した。24年春闘の賃上げ率は5.33%。25年春闘については「5%は超えるが、6%に近付くのではないか。25年春闘もそこそこ成功するだろう」と推測する。賃上げの裾野を、中小企業を含めてどこまで広げられるかが課題になる。
その武器の一つになると渡辺氏がみるのが、25年通常国会に提出された下請け法改正案だ。発注側と下請け事業者との価格決定の協議を義務化し、一方的な支払代金の決定を禁止する内容が盛り込まれている。価格決定権が中小企業に移り、「賃金の引き上げをやりやすくなる可能性がある」と指摘した。
一方、インフレ下では年金受給額が実質的に目減りする恐れがあるため、渡辺氏は、シニア世代から「インフレよりもデフレの方がよい」との意見が根強いことも紹介した。「日本版スパイラル」が続いた影響で「国民には慢性デフレのノスタルジーが残る」と語った。
ただ、大企業を中心に新卒初任給を引き上げる動きが加速し、若年世代を中心に「物価と賃金の好循環」を受け入れるムードが高まる可能性もある。
自分も含め「インフレ時代」を忘れたり、知らなかったりする世代も多い。賃金も物価も上がる「普通の国」になるには、デフレの郷愁や、ぬるま湯からいかに脱するかが課題になると感じた。
ゲスト / Guest
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渡辺努 / Tsutomu WATANABE
東京大学大学院教授
研究テーマ:2025年経済見通し
研究会回数:2