2019年12月02日 15:30 〜 17:00 10階ホール
「英語教育改革の行方」(4) 南風原朝和・東京大学名誉教授

会見メモ

政府は11月1日、2020年度大学入学共通テストでの英語の民間試験の導入延期を発表した。

シリーズ「英語教育改革の行方」では識者や関係者を招き、従来の英語教育・入試の問題点や今回の改革の意義について、多角的に検証する。

シリーズ第4回は、教育心理学が専門で、テストに関する理論に詳しい南風原朝和(はえばら・ともかず)教授が登壇した。

南風原氏は文科省が設置した「高大接続システム改革会議」の委員。編著書『検証 迷走する英語入試』(岩波ブックレット2018年)で英語民間試験の導入を批判し、導入に至った過程の不透明さも指摘してきた。

南風原氏は、入試の英語共通テストの目的は「大学で必要とされる力、特に読解力」であり「高校の学習指導要領が重視する4技能ではない」と指摘。複数の民間試験の成績を共通規準(CEFR)で対応させる仕組みも「(根拠は)砂上の楼閣ほど危うい」と再考を求めた。

司会 磯崎由美 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)

 

「英語教育改革の行方」

(1) 吉田研作・上智大学特任教授  11月7日(木)14:30~16:00  

(2) 羽藤由美・京都工芸繊維大学教授 11月22日(金)13:30〜15:00

(3) 下村博文・元文科相 11月29日(金)16:00〜17:00

 


会見リポート

「改革を止められない力学が働いた」

成田 有佳 (毎日新聞社社会部)

 センター試験の後継として2020年度に始まる「大学入学共通テスト」の目玉だった、英語民間試験の導入。この見送り直後に始まったシリーズ4回目には、テスト理論の第一人者として高大接続改革の課題を指摘している南風原朝和・東京大学名誉教授が登壇した。

 文部科学省が進める高大接続改革は、大学教育と高校教育、両者をつなぐ大学入試のあり方を同時に変える試み。英語に関しては、社会のグローバル化を背景に、高校学習指導要領で「読む・聞く・話す・書く」の英語4技能育成がうたわれていることが、共通テストで4技能を問う支えとなり、英語民間試験の活用へと突き進んだ。

 この間の文科省の有識者会議に出席した南風原氏は大前提として、専門教育機関である大学での学びに必要な英語力は、第一に論文を「読む」力だと主張した。大学入試で問われる英語力、高校教育社会やグローバル社会で武器になる英語力とはそれぞれ何かが検討されず「4技能の評価ありき」の議論だったと振り返った。

 複数の英語民間試験の活用は、南風原氏いわく「測定論的に乱暴。砂上の空論」だった。いつ受けても同じ能力であれば同じ成績が出る「テストの標準化」への疑義など、共通テストで活用するには曖昧で不安定さがあるとした。

 会場からは、南風原氏が「根本的に無理」とまで指摘する改革が、あと一歩まで進んだ背景を尋ねる声が上がった。多くの論拠を示しながら話を進めてきた南風原氏だったが、ここでは「漠然とした感覚的なもので『教育が良くないから自分も英語が話せない、そこが変われば話せるようになる』という声が、日本で広く共有されている」と述べた。自身のように改革の見直しを求める声は「耳障りな抵抗勢力のようで、強い説得力を持たず、(改革を)止められない力学が働いた」と振り返った。


ゲスト / Guest

  • 南風原朝和 / Tomokazu Haebara

    日本 / Japan

    東京大学名誉教授 / Professor Emeritus, Tokyo University

研究テーマ:英語教育改革の行方

研究会回数:4

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