2018年02月13日 13:00 〜 14:30 9階会見場
宍戸常寿 東京大学教授「総論」:シリーズ研究会「憲法論議の視点」(1)

会見メモ

シリーズ研究会「憲法論議の視点」の初回。4年前に39歳で東大教授になった新進気鋭の憲法学者が、「実務的観点から憲法改正を考えたい」として、憲法改正めぐる論点を包括的に紹介した。最後に、「憲法論議が有意義なものとなる条件として、憲法を改正すること、あるいは、改正しないことを自己目的化しないことが憲法論議を有意義にする条件」と指摘した。 

 

同シリーズは計5回。他の回は以下の通り。

2219() 只野雅人・一橋大教授「憲法改正の国民投票」

3312() 青井未帆・学習院大教授と井上武史・九州大准教授との対談「第九条」

4315() 山本龍彦・慶応大教授「新しい人権(プライバシー、AI、環境権など)」

5320() 曽我部真裕・京都大教授「統治機構」  

 

司会 川上高志 日本記者クラブ企画委員(共同通信) 

(下記の会見リポートは、只野雅人・一橋大学教授2月19日との統合版です)

YouTube会見動画

会見詳録


会見リポート

視座を熟考する機会に

川上 高志 (企画委員 共同通信社論説副委員長)

 施行から70年余を迎えた日本国憲法を改正する初めての国民投票に向き合うことに〝なるかもしれない〟という歴史的な地点に今、私たちは立っている。

 改憲論議は安倍晋三首相がアクセルを踏み込む形で進んでいる。自民党が目指す今年中の国会発議に至るのかは現時点では見通せない。だが国会の議論がヒートアップする前に憲法とその改正の意味を整理しておきたいとの狙いから「シリーズ研究会・憲法論議の視点」を企画した。

 考えたポイントは二つある。一つ目は政党の議論に縛られず、幅広い観点を取り上げることだ。全5回の研究会は「総論」から始め、「国民投票」「9条」「新しい人権」「統治機構」と網羅的なテーマ設定とした。

 二つ目は、40代を中心に気鋭の憲法学者をゲスト講師に招くことだ。大御所による「太平洋の両岸から弾を撃ち合う」ようなかみ合わない議論は避けたい。論点を整理し、報道に当たっての視座を熟考する機会となる研究会にしたいと考えた。

 初回の「総論」には100人を超える方に参加していただき、関心の高さを裏付けた。宍戸常寿東大教授の濃密な問題提起は、短い時間の中で憲法全般に触れてほしいという難しい要望に応えるものだったと思う。宍戸氏は憲法改正の意義から憲法典と付随法の関係などの基本的な論点整理の上に、自民党が改憲を目指す4項目などへの具体的な言及、メディアへの注文までを整理。有意義な改憲論議の条件は「憲法現実の何を具体的に確認・変更するのか、しないのかを明らかにすることだ」と指摘し、「国民が『真意』に基づく投票行動ができるよう、社会全体で質疑・討論を尽くすべきだ。賛成・反対の判断の対象・帰結を明らかにする報道が求められる」と提起した。

 2回目は只野雅人一橋大教授に「憲法改正の国民投票」を解説していただいた。只野氏は国民投票を国会審議までを含めた「代表民主制のプロセス」として捉えることが重要だとし、「議員同士の有益な討論がほとんどない国会論議にもっと批判的な目を向けるべきだ」と語った。

 実際に国会発議が行われた時、どう報道するのかは非常に難しい課題だと考えている。国民投票は改正案に賛成か反対かの意思表示しかできない。しかし多くの国民の意識はその中間で揺れ動くだろう。宍戸氏は「ネットや会員制交流サイト(SNS)との比較でメディアの社会的存在意義が問われる」と指摘し、メディアのアクセス権と反論権、広告の扱いなどを今から検討するよう求めた。

 初めて経験する改憲報道に向けて、研究会が論点を突きつめて、整理する機会にしていただければと思う。


ゲスト / Guest

  • 宍戸常寿 / George, SHISHIDO

    東京大学大学院教授 / Professor, Graduate Schools for Law and Politics, Tokyo University

研究テーマ:憲法論議の視点

研究会回数:1

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