2017年02月23日 15:00 〜 16:30 9階会見場
「トランプ政権:米国と世界の行方」(3)トランプ政権と米議会 中林美恵子 早稲田大学准教授

会見メモ

米上院予算委補佐官(国家公務員)の経歴をいかし、新政権の予算編成のポイントを解説。「共和党は予算編成を8年間待ったので、当面はトランプと協力していく。ただオバマケア廃止をトランプが急ぎ社会的混乱を招けば、党内から反発が起きるかもしれない」

 

司会 軽部謙介 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

今後の注目はオバマケアへの対応

軽部 謙介 (企画委員 時事通信社解説委員)

建国の父たちが1787年につくった米国憲法は、連邦議会に関する規定から始まる。

 

「第1条 この憲法によって付与されるすべての立法権は、上院と下院で構成される合衆国連邦議会に属する」(アメリカンセンターJAPAN訳)

 

そのあとも立法府関連の条項が延々と続き、全体の半分くらい読み進んだところで行政府の規定がでてくる。憲法は徹底的な権力の分立をはかり、議会に宣戦布告、徴税、通商交渉など様々な権能を与えているのだ。

 

中林さんは上院予算委員会で共和党スタッフとして10年間活躍した。細々(こまごま)とした規則や慣習にも通じており「米議会という視点からトランプ政権を占ってもらおう」という企画には最適なスピーカーだった。

 

メキシコとの間に壁を造る、大規模な減税を行う―。トランプ大統領は、選挙運動期間中に様々な公約を掲げた。しかし、中林さんによると、「オバマ前大統領の導入した医療保険改革(オバマケア)の廃止」「国境での壁建設の予算措置」「大規模減税」などは立法府の承認が必要な政策だ。

 

昨年11月の大統領選挙とともに行われた議会選挙では上下両院とも共和党が過半を制したが、上院にはトランプ氏に拒否反応を示す共和党議員も何人かいる。党議拘束がない中、彼らの賛成を取り付けつつ、民主党の議事妨害(フィリバスター)を回避して公約を実現させていくのは簡単ではないとのことだった。

 

かつての同僚たちと日常的にメールをやり取りしている中林さん。今後の注目点としてオバマケアの扱いを挙げた。

 

「トランプ氏の言うように全部廃止したら何が起こるのか。無保険者が大量に出現することになる」

 

医療保険の負担が個人の財布を直撃するのは確実。オバマケアの廃止問題を契機にトランプ支持に陰りが生じる可能性があるのも事実だろう。

 

19世紀のフランス人思想家、トクヴィルの書いた『アメリカの民主政治』には「大統領は、劣位にある従属的な権力として、立法議会のそばにおかれている」(井伊玄太郎訳)という一節がある。

 

ニクソンをはじめ過去にも多くの大統領を追い詰めてきた立法府が、不支持率の高い「従属的な権力」であるトランプ氏との間で、チェック・アンド・バランスの機能をどう果たそうとするのか。質疑にも誠実に答えていただいた中林さんの話を聞いてヒントはつかめた気がした。


ゲスト / Guest

  • 中林美恵子 / Mieko Nakabayashi

    早稲田大学准教授 / Associate Professor, Waseda University

研究テーマ:トランプ政権:米国と世界の行方

研究会回数:3

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