2013年03月08日 11:00 〜 12:30 10階ホール
著者と語る『ユーロ危機 欧州統合の歴史と政策』 ロベール・ボワイエ

会見メモ

『ユーロ危機―欧州統合の歴史と政策』の著者で経済学者のロベール・ボワイエさんが、「ユーロ危機の起源、展開、克服」と題し、自説を紹介した。現在の危機は欧州理事会や欧州委員会がその深刻さを過小評価し、誤診を重ねた結果である、とした。ユーロの将来は誰にも予測できないとしながらも、統合の深化に向けた連邦制やユーロ圏の南北分断といった7つのシナリオが考えられる。自分は、その中で多様化する各国の利害を受け入れる“英国勝利型”に収れんしていくことが望ましいと思っている、と。

司会 日本記者クラブ企画委員 小此木潔(朝日新聞)

通訳 宇尾真理子(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

絵図のない欧州

気仙 英郎 (フジサンケイグループ事務局)

多くの建築家が活動しているが、監督役がおらずバラバラ。そんな内容の「ユーロ圏建設現場」というタイトルの風刺画を示しながら「欧州連合(EU)をどうしていくかという絵図がない状態」と表現した。

さまざまな社会的な制度に着目し、そこに働く「調整」(レギュラシオン)を通じて資本主義を分析するという理論的立場からすれば、当然の帰結なのだろう。

ユーロ危機はEUが恒久的な救済基金を創設する措置をとったものの、新たにキプロスの金融危機が表面化した。この情勢に「危機は終わっていない。リセッション(景気後退)の兆しがあるし、南欧諸国の政治的なインバランス(不安定)も続いている」と警鐘を鳴らすことを怠らない。

今後の展開については①連邦主義の進展②欧州のドイツ化③南北の分断④ユーロ主義からの撤退⑤英国の勝利・自由貿易圏と暫定的共同体への移行⑥より民主的プロセスを重視⑦国際金融市場からの再攻撃─の7つのシナリオを提示した。

この中で⑥のシナリオは「現実には難しいだろう」と指摘し⑤は「各国の抱える問題を包括でき、多くの支持を受けている」と語った。会場からは「⑤はEUにとって危ういシナリオでは」との質問が出た。これに対して「英国は一国主義的な国であり、EUを分断させようと考えている。その一方でEUが徐々に連邦に移行することも認めている。東欧諸国がEUに付くのか英国に付くのかがカギ」との認識を示した。

欧州危機克服の明確な処方箋を期待していた向きにはもの足りない講演内容だったかもしれない。だが「本当の意味の安定を得るには今後20年はかかる。超国家建設は慎重に。科学ではなく芸術なのだから」などの言葉からはむしろ揺るぎない統合への確信を感じることができた。


ゲスト / Guest

  • ロベール・ボワイエ / Robert Boyer

    米州研究所(パリ)エコノミスト

研究テーマ:著者と語る『ユーロ危機 欧州統合の歴史と政策』

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