ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


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常磐線、完全復活へ(文化放送報道スポーツ部次長補佐 斉藤一美)2020年3月

 橋上化された双葉駅の新駅舎は地元の双葉町が17億円を投じた立派な造りだった。歩行者が遠くの踏切を渡らずに海側と山側を自由に往来できる通路と「東口」「西口」という2つの駅前広場を構える。

 

 開業前の下りホームを、甲高い警笛とともに特急列車が猛スピードで通過した。乗客は皆無。乗務員の訓練だ。何せ常磐線は9年間もこの一帯を走っていなかったのだから。第一前田川橋梁に至っては、自慢の橋桁が東日本大震災の影響で無残に崩れ落ちた。耐震性を高めた新しい鉄橋を含め、一帯の信号設備も新品に替わっている。ここを走る感触は何度でも確かめておきたいだろう。

 

 すなわち、この日の試運転列車は帰還困難区域を走っていた。乗務員もわれわれ取材団同様、キチンと届け出を済ませて習熟訓練に臨んでいたのだ。高い線量の中で長期間の除染を根気強く続けたからこそ、今があることを思い知った。

 

 鉄道がある街には「力」が宿るはず。常磐線の全線開通が、被災地に奇跡を呼び込むことを心から祈っている。

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