2022年09月14日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「ウクライナ」(19)サイバー戦の実態と台湾情勢 松原実穂子NTT チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト

会見メモ

ウクライナ・ロシア間のサイバー戦の実態や、そこから得られる教訓、日本に今後求められる対策などについて、サイバーセキュリティの第一人者、松原実穂子さんが話した。

 

司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

「実利」が支える欧米のウクライナ支援

森 永輔 (日経BP日経ビジネス)

 2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した。この知らせを耳にした時、誰もがハイブリッド戦になることを想像しただろう。ロシアが2014年にクリミア半島を併合した際の戦いぶりは私たちの脳裏に鮮烈な記憶を残した。衛星通信やレーダーを遮断。重要インフラにサイバー攻撃を仕掛けて社会をかく乱――。

 ところが今回、事態が進んでもハイブリッド戦の様相は濃くならなかった。代わりに注目されたのはドローンが大きな役割を果たしことと、プーチン大統領による核の威嚇だ。

 では、ロシアは宇宙やサイバー空間を使った攻撃をしなかったのか。決して、そんなことはない。ウクライナの中央省庁はDDoS攻撃を受けてウェブサイトがダウン。変電所では停電を招くウイルスが発見された。

 松原実穂子氏はこうした攻撃による被害が予想より小さい理由として、米国や欧州諸国が侵攻前からウクライナを支援していたことを挙げる。例えば、ウクライナの鉄道システムがマルウエア「ワイパー」に感染していることを米国の支援チームが発見し事前に駆除した。「これを見逃していれば、100万人のウクライナ市民が鉄道で東欧に避難することはかなわなかった」(同氏)。

 なぜ、NATO加盟国でないウクライナが欧米からこうした支援を事前に受けられたのか。また、侵攻開始から半年たった今も支援を受け続けられているのはなぜか。松原氏はその答の1つをウクライナが提供する「知見」と見る。ウクライナは2014年以来、ロシアから大規模な電子戦やジャミングを幾度も受けてきた。「その過程で得た情報は、米軍が喉から手が出るほど欲しいもの」(松原氏)。ウクライナは2015年、米国がウクライナを支援すべく実施した合同軍事演習において、こうした知見を提供した。

 「自由と民主主義を守る」。欧米諸国がウクライナを支援するのは、こうした「大義」があるからだ。しかし、大義だけで支援は続かない。資源価格が高騰し、国民の不満が高まれば、欧米諸国が掲げる大義は揺らぎかねない。大義が抱えるそのもろさを補うのが「実利」だ。ウクライナは「知見」を「実利」として欧米諸国に提供した。松原氏の会見は、ハイブリッド戦・サイバー戦の実態を描き出しつつ、冷徹な国際関係あぶり出すものでもあった。


ゲスト / Guest

  • 松原実穂子

    NTT チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト

研究テーマ:ウクライナ

研究会回数:19

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