会見リポート
2021年06月10日
13:30 〜 15:00
オンライン開催
「新型コロナウイルス」(64) コロナ後の社会 村上陽一郎・東京大学名誉教授(科学史家・科学哲学者)
会見メモ
科学史、科学哲学を専門とする村上陽一郎さんが、リモートで登壇し、感染症と医療、コロナ後の世界などについて話した。
司会 橋本五郎 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)
会見リポート
正解のない事態に耐える力を
渡辺 勉 (朝日新聞社編集担当補佐)
感染者数の増減に一喜一憂せず、人類に与える影響を俯瞰しようと招いた科学史家は、マスコミに足りない大局的な視点を提供してくれた。
まず、現状をどう捉えるべきか。社会の成員すべてが等しく生命を危険にさらされる状態を「非常時」と定義したうえで、コロナ禍は「非常時」を生み出していると指摘した。
新型コロナは感染率が高く、死亡率が低いという特徴を持ち、パンデミックに最も適しているからだ。感染抑制のためには「人間同士の接触を断つ」しかないという。そうした中で、ワクチンが世界で素早く開発されたことは「驚くべきことであり、人類も捨てたものではない」と評価した。
日本の苦境は、「現在の医療経済政策の結果」だと指摘し、保健所が約30年間で半減し、病床数も減少傾向が顕著に続いていることを例示した。
では、災後の世界はどうなるか。希望的観測として、①東京一極集中の緩和②非現場主義の成立を挙げた。ただ、日本も含めて「最善」と言える政策は絶無であり、「試行錯誤の中でプラスとマイナスのバランスを考えるしかない」ため、「拙速に走らず、正解のない事態に耐える能力」が必要な時代になると言う。
政治や経済、学界においても、「ベストな解決策」を期待せず、「ベターな解決策」を実行する見識を持つ人々が求められる。「ベスト」は撤回しにくいが、「ベター」ならより「ベター」な解決策に乗り換えやすいからだ。「今後はベストではなく、ベターを探せ」と提唱した。
政治家と専門家の関係はどうあるべきか。「科学的判断だけでは結論を下せない領域がある」ため、「各領域の専門家が集まり、その上にカバーをかけて全体を俯瞰的に考え、ベターなところを判断できる存在」が政治の世界に必要だと確言した。
「コロナ禍は、各分野で『何を考えなければいけないか』を教えてくれる勉強の場だと考えてほしい」と締めくくる碩学の言葉に深くうなずかされた。
ゲスト / Guest
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村上陽一郎 / Yoichiro Murakami
東京大学名誉教授、国際基督教大学名誉教授、科学史家・科学哲学者
研究テーマ:新型コロナウイルス
研究会回数:64