2021年06月17日 14:00 〜 15:30 オンライン開催
「新型コロナウイルス」(67) コロナ後の社会 中村桂子・JT生命誌研究館名誉館長

会見メモ

ゲノムを基本に人間を含む様々な生きものの関係や歴史を読み解くための学問「生命誌」を提唱した中村桂子・JT生命誌研究館名誉館長が登壇し、生命科学の観点から新型コロナウイルス後の社会や今後の生き方について話した。

司会 坪井ゆづる 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)

 


会見リポート

生きものとしての「私たち」を意識する

鈴木 穣 (東京新聞論説委員)

 会見で示した壮大な絵巻が印象的だった。扇形の支点を生物の起源とし38億年かけ広がる外縁部に向かって進化の多様性を表している。

 「いちばん大事なこと」とこの絵巻を説明した。「多くの人はこの生命誌を上から見ている。上から目線で少し不遜だ。そうではなくこの中からの目線で、生物のお互いの関係をきちんと見て生きていくのがホモサピエンス」と語る。

 自然や生きものの中に「私たち」もいることを意識する。コロナ禍のように自然との関係の中で思いもしなかった問題が起こった時、この意識が重要になると言う。

 マクロの視点でとらえた後にミクロの視点でも説明した。

 「人体には380兆個のウイルスがいる」。ヒトの2万5千遺伝子に対し体内や皮膚に棲み着くウイルスなどは330万遺伝子。

 「人は両親の遺伝子でてきていると思っているが、人よりウイルスの遺伝子量は多い。生きものの世界で生きるとはこういうこと」と異物ととらえがちなウイルスとの関係性を生命科学の面から紹介した。

 「ポストコロナ」との言葉への違和感も指摘した。「戦って勝ちコロナと関係ない時代と考えるより、実はウイルスは存在し続けることを前提に賢い生き方をしていくと考えた方がいい」。コロナ後の社会の有り様を考える視座になるだろう。

 そのヒントに社会を「機械」と「生命体」に対比した。技術進歩は肯定しつつ「一律に外から手を加える開発」よりは「生物が卵から発生する内発の多様性」がキーになる。

 会見の最後で「最初の生物は分裂して増えたから死はなかった。進化の中で性が生まれ個体は死んで子へつなぐ、命のつなげ方を変えた。そうすることで混じり合い新しい唯一無二のものが生まれる。継続性を支える見事なシステムだ」との言葉が新鮮だった。


ゲスト / Guest

  • 中村桂子 / Keiko Nakamura

    JT生命誌研究館名誉館長

研究テーマ:新型コロナウイルス

研究会回数:67

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