会見リポート
2021年06月04日
13:00 〜 14:30
オンライン開催
「サウジから見た最近の中東情勢」上村司・前駐サウジアラビア大使
会見メモ
2017年10月から今年2月まで駐サウジアラビア大使を務めた上村司さんが登壇し、「サウジから見た最近の中東情勢」について話した。
司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)
※ゲストの意向により、本会見の動画はYouTubeに公開しません。
会見リポート
大改革の真っただ中/石油王国の変化を熱弁
脇 祐三 (日本経済新聞社客員編集委員)
サウジアラビアは長年、大きな変化を避ける国だった。その保守的な王国がいま「大改革の真っただ中」にあり、女性の社会進出も目覚ましい。上村前大使が熱を込めて語ったのは、近年のサウジの変化の大きさだ。サルマン国王、ムハンマド皇太子の下で、「ある種の国民運動として改革が開花しつつある」と上村氏は説く。
皇太子が主導して、宗教界の過大な影響力をそぎ落とした。女性の自動車運転を解禁して社会進出の機会をつくり、映画の上映など娯楽の幅も広げた。これまで宗教界のお墨付きを正統性の根拠としてきた王制が、国民の大半を占める若者と女性の支持をテコにサバイバルをめざす。
皇太子への名指しの批判などタブーはあるが、国民はそれなりの自由を感じるようになり、改革の高揚感があるという。国民がSNSで政策への不満を表明すると、政府もなにがしかの対策を講じる。上村氏はそういう政治状況を、「ある種のスマホ民主主義」と評する。
世界が「脱炭素化」に向かい始め、サウジは石油依存型経済からの脱却を迫られる。皇太子の掲げるビジョンは、膨大な炭化水素資源を水素やアンモニアの形にして輸出する一方、観光などサービス産業を重点的に育成して雇用を創出する青写真を描く。これに関連して上村氏は、いまのサウジの若者はウーバーのドライバーなど接客業もいとわないと説明した。勤労意識の前向きな変化は印象的だ。
外交では4年前に断交したカタールとの関係を今年、正常化した。対立を強めていたイランやトルコとの関係修復を探る動きも出てきた。変化の背景の一つは、米国の政権交代。もう一つは、「皇太子の過去4年間の学習効果」と上村氏は見る。
カショギ氏殺害事件などでネガティブに見られがちなサウジだが、ポジティブな変化にも目を向けると、中東への理解が深まる――そういうゲストの思いが前面に出た会見だった。
ゲスト / Guest
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上村司 / Tsukasa UEMURA
前駐サウジアラビア大使
研究テーマ:サウジから見た最近の中東情勢