会見リポート
2020年03月16日
17:00 〜 18:30
10階ホール
「雇用問題研究会」(1) 同一賃金は非正規を救えるのか 神吉知郁子・立教大学准教授
会見メモ
今般、新卒一括採用の見直し、中途採用の拡大、70歳までの就業機会の提供などが議論され、今年4月には「同一労働同一賃金」が施行されるなど、従来の「日本型雇用」の変容は避けられなくなっている。
シリーズ「雇用問題研究会」では、この変容は本当に働く人のためになるのか、就業意欲の向上につながるのかといった論点について、功罪を含めて様々な観点から識者に聞く。
シリーズ1回目は、同一労働同一賃金の制度が非正規雇用の労働者の救済となるのかについて、著書に『最低賃金と最低生活保障の法規制 ― 日英仏の比較法的研究』(信山社、2011年)などのある神吉知郁子・立教大学准教授に聞いた。
司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)
「雇用問題研究会」
会見リポート
男女格差の解消にはつながらず
長友 佐波子 (朝日新聞出身)
働き方改革の一環として4月、「同一労働同一賃金」を盛り込んだ改正パートタイム・有期雇用労働法が施行される。「非正規を救えるか?」と題した立教大学法学部の神吉知郁子准教授の会見は、法制化は残念ながら男女賃金格差の解消につながらないとの見通しを示した。准教授によると、国が「我が国が目指す」と強調した「同一労働同一賃金」は、「同じ働きには同じ賃金を払うべき」という原則とは異なるという。既存の正規・非正規の枠組みは温存したまま、行き過ぎた格差の是正のみに留まると見る。
神吉准教授はまず、正社員という身分が日本独自の制度であること、正規・非正規の区分は職務ではなく、職務や配置が非限定的か限定的かという働き方に応じた待遇差であることを指摘した。あらかじめ職務と賃金を定めて、単純に時間でフルタイムかパートかを分ける諸外国とは、「同一」の素地が異なるわけだ。
始まりは高度成長期。片稼ぎ世帯の大黒柱である夫を正規で、その妻を補佐的な労働力として低待遇のパートで雇うモデルは当時、雇用の最適解とされた。長時間労働や転勤など、職務や配置の「将来可変性」を受け入れる代わり、正社員には長期安定雇用と好待遇が約束された。
だがバブル崩壊後、パートの職責の変化や派遣の導入、男性非正規や再雇用の増大など雇用は多様化。正規と非正規の待遇格差はこのところしばしば訴訟で争われてきた。
4月の法制化のうち、パート有期法は8条、9条で「不合理な待遇」「差別的取扱い」を禁じる。ただ、職務内容や配置転換が同じ場合での比較だ。中長期的な働き方と関係がない通勤手当などの各種手当は改善が求められるだろうが、基本給などの格差は合理的と判断され是正されづらいと、神吉准教授は予測する。
不合理な格差解消の過程で今後、企業が賃金で負担してきた住宅や教育などの社会福祉費を誰が負担するかが議論になるかもしれない。神吉准教授は何よりも、「いつでも、どこでも、いつまでも」働くという正社員の働き方こそ、いま考えるべき真の働き方改革ではないかと指摘した。
ゲスト / Guest
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神吉知郁子 / Chikako Kanki
日本 / Japan
立教大学准教授 / Associate professor, College of Law & Politics, Rikkyo University
研究テーマ:雇用問題研究会
研究会回数:1