会見リポート
2020年03月23日
17:00 〜 18:30
10階ホール
「雇用問題研究会」(2) 「日本型雇用」を考える 小熊英二・慶應義塾大学教授
会見メモ
今般、新卒一括採用の見直し、中途採用の拡大、70歳までの就業機会の提供などが議論され、今年4月には「同一労働同一賃金」が施行されるなど、従来の「日本型雇用」の変容は避けられなくなっている。
シリーズ「雇用問題研究会」では、この変容は本当に働く人のためになるのか、就業意欲の向上につながるのかといった論点について、功罪を含めて様々な観点から識者に聞く。
シリーズ2回目は、日本型雇用システムが形成された経緯や、その見直しにあたって必要な問題意識などについて、著書に『日本社会のしくみ―雇用・教育・福祉の歴史社会学』(講談社現代新書、2019年)などのある小熊英二・慶應義塾大学教授に聞いた。
司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)
「雇用問題研究会」
会見リポート
長期雇用・年功賃金は3割
猪熊 律子 (企画委員 読売新聞社編集委員)
雇用のみならず、教育、社会保障、政治など膨大な文献やデータに基づく知見を披露した濃密な1時間。
「『昔はみんな長期雇用・年功賃金だった』は幻想」。こう言われて、えっと思う人も多いのではないか。
政府の就業構造基本調査などから小熊氏が割り出したところ、長期雇用・年功賃金を保障される正社員は全就業者の3割程度。このコア層は数十年来変わってなく、この層が議論やメディアの報道対象となってきたことから、これぞ日本の雇用のメインストリームと思われてきた。だが実は、この層に入らない正社員や非正規労働者、自営業者が地方を中心におり、こちらの生活の不安定化が目下の大きな懸念という。
では、全就業者の約3割しかいない「日本型」と呼ばれる雇用慣行はどうできあがってきたのか。
わかりやすかったのは他国(欧州等)と比較した説明だ。社内で昇進して職種が変わるのが日本型(縦の移動)。職種内で昇進して企業が変わるのが他国型(横の移動)。横に動くには職務内容の明確化と企業をまたいだ人材評価の共通基準が必要だ。職種別組合が発達し、人種差別訴訟で基準作成を迫られた他国ではこれらが形作られたが、そうされてこなかったのが日本。
明治時代、「仕事によってではなく勤続年数で上がる官位により賃金が決まる」官庁と、「職務能力より忠誠心や適応性を重視する」軍隊のやり方が企業に波及したと見る。
日本型雇用は、何度も見直しが叫ばれてきた。人材評価基準の「透明化」に解があるようだが、理屈でわかっても、社会の慣行を形作る人々の行動や意識が変わらなければ改革は実現しない。
最後、揮ごうに「言論の自由」としたためた。人々が声を上げ、新たな合意を作ることで改革は進むが、「声を上げにくい人がいる。その声を拾ってくるのが皆さんの役割」と。ありがたい宿題をもらった。
ゲスト / Guest
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小熊英二 / Eiji Oguma
日本 / Japan
慶應義塾大学教授 / professor, Keio University
研究テーマ:雇用問題研究会
研究会回数:2