2019年04月17日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「イスラエル総選挙と中東情勢の今後」立山良司・防衛大学校名誉教授/池田明史・東洋英和女学院大学学長

会見メモ

写真左から立山良司・防衛大学校名誉教授、池田明史・東洋英和女学院大学学長

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)

 


会見リポート

右傾化が固定し、対パレスチナ強硬路線継続へ

二村 伸 (NHK解説委員)

 「イスラエル社会の右傾化が進み、パレスチナとの和平の機運が再び高まることは近い将来ないだろう」と話す立山教授。かたや軍事的側面から「イスラエルの次の一戦は北方戦線ではないか」と池田教授。4月9日に実施されたイスラエル総選挙の結果、第5次ネタニヤフ政権の発足がほぼ確実になった背景と今後について2人の専門家の分析は興味深い。

 立山教授は、ネタニヤフ首相の勝因を4点挙げた。①社会の右傾化、②安全保障上の懸念の低下、③トランプ大統領との盟友関係など外交での実績、④好調な経済である。選挙前に日本のメディアの多くが「ネタニヤフ苦戦」を伝えたが、連立を考えれば右派連合の勝利は最初から予測できたと指摘する。接戦でないとニュースの扱いが悪くなるからだ。ガンツ元参謀総長率いる「青白連合」も和平推進派ではなく中道より右派に属する。労働党は凋落し、パレスチナ和平を掲げる政党は4議席にとどまったメレツぐらいで、イスラエルのユダヤ人社会は右傾化が固定化し、ナショナリズムの拡大が顕著だという。

 一方、池田教授はイスラエルの「交戦事由の転換」に注目する。従来の「レッドライン(受忍限度)を越えれば武力行使」から、イスラエル周辺の軍事的脅威に対して「受忍限度にかかわらず武力で排除」への転換で、「選択の余地なき戦争」から「戦略的選択の結果としての戦争」に転換した1982年のレバノン戦争以来のことだという。その一戦となるのが北方、つまりレバノンのヒズボラとシリア駐留のイラン革命防衛隊の脅威に対する戦争であり、米軍のシリア撤退後、その可能性が高まるだろうと池田教授は見ている。

 中東で将来を予測することは禁物だが、ネタニヤフ首相は蜜月関係にあるトランプ大統領の後押しを受けながら対パレスチナ強硬路線を継続していくことは間違いないようだ。唯一状況が変わる可能性があるとすれば、ネタニヤフ首相が背任・不正・収賄の罪で起訴された場合だが、2人の話を聞く限り外交政策の変化は期待できそうにない。残念ながらパレスチナの人々にとって明るい材料は見当たらない。


ゲスト / Guest

  • 立山良司 / Ryoji Tateyama

    日本 / Japan

    防衛大学校名誉教授 / professor emeritus, National Defense Academy

  • 池田明史 / Akifumi Ikeda

    日本 / Japan

    東洋英和女学院大学学長 / President, Toyo Eiwa University

研究テーマ:イスラエル総選挙と中東情勢の今後

研究会回数:0

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