2019年03月26日 13:30 〜 15:00 9階会見場
「日本の労働を誰が支えるのか」(6) 先進的受入国から学ぶもの、後発国から学ぶもの 小井土彰宏・一橋大学大学院教授

会見メモ

『移民受入の国際社会学』編著など移民受け入れ制度に詳しい小井土教授が、スペインの例を中心に各国の政策をあげながら、日本がとるべき政策、姿勢について話した。

multiculturalism(多文化主義)の行き詰まりを指摘し、スペインのinterculturality(異文化横断制、通文化主義)に日本が学ぶヒントがあるとして、通文化媒介者=文化の架け橋になる人材を養成する必要性を説いた。

 

一橋大学教員紹介ページ

 『移民受入の国際社会学―選別メカニズムの比較分析』(名古屋大学出版会)

 

司会 鶴原徹也 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)

 


会見リポート

スペイン移民政策に学ぶ

松浦 茂長 (フジテレビ出身)

 地中海で難民を救助しても、近頃はどの国も入港を拒否。救助船を受け入れるのはスペインだけになってしまったので、「そんなに無理すると、極右やポピュリストが勢いづくのでは?」と気になっていたのだが、小井土教授の話を聞いて納得がいった。

 スペインは移民を出す国だったのに、1980年代後半に移民受け入れ国に大転換した。ちょうどフランスなどで移民を巡る摩擦が出始めた時期でもあり、スペインは徹底した統合政策を練り上げた。英国型の多文化主義は、一見移民の文化を尊重しているようで、それぞれの共同体を固定化してバラバラにする。「中にはタッチしません。ご自由に」という冷たい態度。これに対し、スペインのやり方は、各共同体が相互に交流し、理解し合えるよう、積極的に介入する。異文化への繊細な配慮の姿勢なのだそうだ。

 移民の中に不満が生まれると、不満が偏見に変わり、それが暴力につながる。誤解から不満が生じないよう、相手の意図を説明してあげる異文化間の橋渡し役が必須。その役割は「通訳」を大きく超え、緊急の必要に応えるため、24時間の対応が求められることもある。スペインでは大学で集中的に専門家を養成しているのに対し、日本では、外国人受け入れの仕事を日本語教師やボランティアに丸投げしている現状。これでは負担が大き過ぎる。

 日本もスペイン同様、移民受け入れ後発国だから、ヨーロッパの失敗に学べる有利さという点では共通だ。ただ、スペインには独自の歴史的背景がある。フランコの独裁から民主化する中で歴史の読み替えが行われ、カトリック国スペインという歴史認識から、イスラム文化の精華を伝え、東西文化交流の窓口であったスペインという歴史イメージへと大修正された。移民への優しさの背景には、多様性の国という新しい自己イメージがあったわけだ。


ゲスト / Guest

  • 小井土彰宏 / Akihiro Koido

    一橋大学大学院教授 / professor, graduate school, Hitosubashi University

研究テーマ:日本の労働を誰が支えるのか

研究会回数:6

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