2019年03月20日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「ポピュリズム考」(3) 伊藤武・東京大学大学院准教授

会見メモ

司会 土生修一 日本記者クラブ専務理事・事務局長


会見リポート

イタリア政治を複眼的に解説

林 路郎 (読売新聞社調査研究本部主任研究員)

 イタリア現代政治は関連書籍が少なく、日本での報道も手厚いとは言い難い。長年の研究と留学経験で培った伊藤氏の皮膚感覚は示唆に富む。「同盟」「五つ星運動」のように左右のポピュリスト政党が主体の政権は欧州主要国でほぼ初めて。だが、伊藤氏は、伊国民が1994年選挙で既成政党を葬り去り、ある種ポピュリスト的なベルルスコーニという政治家を選んだ経験から、新勢力が「既成政党を壊す」と叫んでも「決定的な破滅には至らない」とみる免疫力を持つに至ったと説明した。

 経済や移民・難民問題に現実的な処方箋を持つ党を選ぶという「有権者の合理的判断」が両党を政権へ押し上げたのであり、過剰反応よりも「冷静な評価が必要」と説いた。「大衆は無知蒙昧で扇動される存在」というポピュリズム論にありがちな前提は、投票データから見れば成り立たないと強調する。

 伊国民が「欧州連合(EU)はアンフェア」との反感を抱いた背景説明も説得力を持つ。難民問題ではイタリアの相対的負担が大きいが、欧州全体の危機は去り、難民の「再配分」やEUの財政支援といった約束は果たされていない。EUの財政規律でも、同じ違反をしても欧州委員会の対応は「独仏にはイタリアに対するより手ぬるい」と感じている。

 伊藤氏の言葉は、欧州統合の原加盟国イタリアが徐々に自国を周縁の存在と見なすに至った歴史と聞こえた。中露など非自由主義国とイタリアの接近がEUで軋轢を生むが、緊縮財政下で開発資金が不足し、中国の投資は魅力的に映る。

 天然ガスの輸入元ロシアとの関係も重要だ。伊藤氏は、イタリアには経済的な事情があり、この路線は「当面変わらない」と予測した。国際報道における複眼的な視点の重要性を再確認させられる会見ではなかったか。


ゲスト / Guest

  • 伊藤武 / Takeshi Ito

    日本 / Japan

    東京大学大学院准教授 / Associate Professor, University of Tokyo

研究テーマ:ポピュリズム考

研究会回数:3

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