2019年02月21日 14:00 〜 15:15 9階会見場
ホセ・ルイス・マーティン・C・ガスコン フィリピン人権委員会議長 会見

会見メモ

フィリピン人権委員会

司会 土生修一日本記者クラブ専務理事・事務局長

通訳 池田薫(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

「今、抵抗しなければ手遅れに」

川瀬 憲司 (日本経済新聞社編集委員)

 自由や民主、基本的人権といった普遍的な価値は決して当たり前ではない、という当たり前のことを改めて思い知らされた会見だった。

 その闘いの最前線に身を置くフィリピン人権委員会議長のガスコン氏は会見で「ドゥテルテ政権が誕生した2016年以降、わが国は30年続いた民主的な時代から離れていく地殻変動に直面している」と語った。

 民主的な選挙を通じて選ばれたドゥテルテ大統領だが、麻薬犯罪撲滅を名目とする超法規的殺人を容認し、ガスコン氏によると2年半で2万人以上が犠牲になった。「人権や法の適正手続き、推定無罪など(憲法の)権利章典が定める様々な保障を完全に拒絶している」という。

 現行憲法はちょうど33年前の1986年2月25日、マルコス独裁政権を倒した「ピープルパワー革命」の賜物だ。学生指導者として先頭に立った自らも制憲会議に最年少メンバーとして加わり、その翌年新憲法は施行された。

 人権委員会も憲法が生んだ政府を監視する独立機関だ。アキノ前大統領の任命で22年まで任期は保障されるが、ドゥテルテ大統領にとって目障りな存在だ。最終的に議会が否決したが、年間予算を1000ペソ(約2130円)に削減する予算案も出された。かつて議長を務め、政権批判の急先鋒のデリマ上院議員は逮捕され、丸2年の拘束は今も続く。「私は幸いにも逮捕されていないが、近いうちにそうなるかもしれない」と、ガスコン氏は腹をくくっている。

 自らの安全を危険にさらしても闘うべきだと考えるのは、ドゥテルテ式統治が世界に広がりつつあると感じるからだ。日本で訴えたのは「アジアの民主国家として、これらの価値を守るためもっと積極的に声を上げてほしい」。

 ガスコン氏は言う。「もし今立ち向かわなければ手遅れになるかもしれない。独裁主義が標準となり、民主主義は記憶の中だけになってしまう」


ゲスト / Guest

  • ホセ・ルイス・マーティン・C・ガスコン / Jose Luis Martin C. Gascon

    フィリピン / Republic of the Philippines

    フィリピン人権委員会議長 / Chairperson of the Commission on Human Rights (CHR) of the Republic of the Philippines

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