会見リポート
2018年12月03日
13:30 〜 15:00
10階ホール
「ジャーナリズムとAI 米国メディアの現状と挑戦」 津山恵子・ジャーナリスト
会見メモ
Global Editors Network(本部:パリ)が今年9月に主催した「AIスタディ・ツアー」に参加したジャーナリスト津山恵子氏(ニューヨーク在住、共同通信出身)が会見。AP、ロイター、ウォール・ストリート・ジャーナルが採り入れているAI(人工知能)による記事・動画の作成事例を紹介し、メリットと課題について話した。
司会 播摩卓士 日本記者クラブ企画委員(TBS)
会見リポート
米メディア、AI利用で発信力強化
前村 尚 (読売新聞東京本社編集局科学部)
米国はトランプ政権に変わり、政治とメディアを巡る状況は一変した。トランプ大統領はツイッターに5000万のフォロアーを抱え、日々、ニューヨークタイムズやCNNなど既存の大手メディアを「フェイクニュース」と攻撃する。既存メディアは、「民主主義の生命線への危機」と訴えるが、情報の拡散力の点で太刀打ちできない。
津山氏は「その対抗策の一つとして、注目されているのが人工知能(AI)だ」と話す。AIを駆使することでニュースの発信力を強化する方向に変わったという。
ツイッターの情報をもとにAIがニュースのネタを探す試みもすでに始まっている。2017年5月、英マンチェスターの公演で起きた自爆テロでは、ロイター通信は現場に居合わせたファンなどのつぶやきをもとに事件を察知し、発生からわずか17分で速報を配信したという。
最も衝撃的だったのは、調査報道への利用だ。多くの情報から、高速で特徴を抽出するというAIの得意分野を生かしている。米国のあるニュースメディアは、大量にある裁判所の判決を分析させ、黒人と白人と大きな隔たりがあることを突き止めた。津山氏は「さらにデータサイエンティストを追加採用している」と説明し、AIがメディア業界で普及している現状を紹介した。
ただAIには巧妙な偽情報を作れるという負の側面もある。音声や画像を加工して、簡単に本人になりすますことができるため、ウォール・ストリート・ジャーナルは社内に対策チームを作っている。それほどフェイクニュースは進んでいる。
人類は今、新たな道具を手に入れた。活用しない手はない。AIは大量のデータに基づき、指示を実行する。その反面、好奇心や想像力を自ら働かせ、未知の状況を推察するのは苦手だ。「AIにできない能力を人間はどう向上させるか」。津山氏が最後に語った言葉が印象的だった。
ゲスト / Guest
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津山恵子 / Keiko Tsuyama
ジャーナリスト / Journalist
研究テーマ:ジャーナリズムとAI 米国メディアの現状と挑戦