2018年07月11日 13:30 〜 14:30 10階ホール
「朝鮮半島の今を知る」(12)『隣人、それから。: 38度線の北』初沢亜利・写真家

会見メモ

訪朝経験は計7回、直近は今年2月。「以前と比べ、平壌市民の服装がカラフルになり自動車も急増した。街の様子からは、制裁で追い込まれ友好路線へ転換したとは思えない」。地方も含め北朝鮮の日常生活を撮影した貴重な映像を紹介しながら感想を語った。

 

司会 五味洋治 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

北朝鮮に「新市民」出現、格差への不満も

塚本 壮一 (NHK解説委員室解説委員)

 北朝鮮での取材が容易でないのは言うまでもないが、初沢さんは2010年以降、今年2月まで7回に及ぶ訪朝で現地の人たちの信頼を獲得し、また、当局との駆け引きもあったのだろう。ピョンヤン中心部だけでなく、外国人があまり足を踏み入れることのない裏通りや地方でも撮影を重ねた。

 会場で上映された写真集の一部、35枚の写真には目を見張った。高麗航空機の客席でおしゃべりに興じるお洒落な女性は、新興の富裕層だという。レストランで顔を寄せ合って語り合う若い男女は、金正恩政権下で出現した新世代カップルだ。地方では、フロントガラスが壊れたままのトラックが走っている一方で、タクシーも現れ始めている。スクリーンに映し出された写真は、首都の変貌と地方の緩やかな変化、そして、それぞれに暮らす人々の“いま”の姿をつぶさに捉えていることをうかがわせた。

 初沢さんは、金正恩氏のことを市民はどう考えているのかという質問に、「北朝鮮の人たちは外国人と必要以上に話をしてはならないとされているため、本当のところは分からない」と率直に語った。しかし、初沢さんは、金持ちが乗り回す外車を見た公務員が「金儲けしやがって」と舌打ちするのを耳にしている。格差への不満が広がりつつある可能性を示す貴重な証言だ。

 にもかかわらず、ピョンヤンの建設ラッシュや交通量の急増と相まって、いまや人々は自信を持ち、生活のさらなる向上への期待が高まっているという。そうであれば、米朝の非核化協議は停滞しているが、北朝鮮が対話路線を捨てることはないのだろうか。

 残念ながら、私たちが北朝鮮の人々の素顔に触れることは困難だ。初沢さんの話は、北朝鮮指導部の向こうに国民が確かに存在することを実感させてくれた。


ゲスト / Guest

  • 初沢亜利 / Ari Hatsuzawa

    写真家 / Photographer

研究テーマ:朝鮮半島の今を知る

研究会回数:12

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