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米歌手・レディー・ガガさん/「思いやりが世界を変える」(飯田 香織)2020年8月

 コロナ危機では「私たちのために命懸けで闘っている全ての医療従事者のことを毎日思い、祈っています」と発言。アメリカで白人警察官に取り押さえられた黒人男性が死亡した事件の後はツイッターで「私たち白人は特権階級として、人種差別を受けて亡くなった人たちのために立ち上がることが十分にできませんでした」と認め、「今こそ変わるべき」と呼び掛けた。

 奇抜なメイクやファッションで一躍有名になった歌手のレディー・ガガさんは、圧倒的な歌唱力とともに積極的に考えや思いを発信することでも知られる。  

 

■トランプ大統領に反論ツイート

 

 駐在していた米ロサンゼルスで2018年11月に会ったガガさんは小柄できゃしゃ。でも、トレードマークのアイラインをしっかり引いた目は迫力があり、話している間、視線をそらすことなく、芯の強さと誠実さが伝わった。

 当時、カリフォルニア州一帯で大規模な山火事が発生し、ガガさんもロサンゼルス近郊にある自宅近くまで火の手が迫り、一時、避難を余儀なくされた。多くの人たちが一斉に避難している時にトランプ大統領が「きちんと森林を管理していれば、カリフォルニア州で頻発している破壊を止めることができる。もっと賢くなれ!」とツイートした。

 環境政策や移民政策などでことごとく、カリフォルニアと対立してきたトランプ大統領の心ない投稿にガガさんが反論。「前から分かっていたが、独り善がりな人だ。大統領、少しはカリフォルニアの人たちに思いを寄せて、この国が思いやりのある国だという模範を示しなさい」

 —トランプ大統領に歯向かえば徹底的に意地悪されそうなのに、なぜあんな投稿をしたの?

 「経験したことのないような大災害でした。あの時、(ツイートする以外)他にできることはありませんでした。家や家族を失った皆さんに対して、私はたくさんの思いやりと愛情を抱いています」

 

■「優しくない人にも優しく」と母

 

    —そう思うのは誰の影響なの?

 間髪を入れず「母です」とガガさん。子どもの頃、髪型のことや大きな夢を持っていることから学校でいじめられ、母親に相談すると決まって言われたそうだ。「優しさでやっつけてしまいなさい(kill them with kindness)」と。ガガさんいわく「優しい人に優しくすることは素晴らしいことよ。でも、優しくない人に優しくすることも大事。私、心底そう思っているの」。

 ガガさんのツイッターのフォロワー数は8000万余り。並んで多いのがトランプ大統領で、二人ともトップ10の常連だ(ナンバーワンはオバマ前大統領)。

 暴力を称賛する投稿をしたとしてツイッターから警告を受けたトランプ大統領に対して、ガガさんは若い人たちに繰り返し「ぜひ思いやりを持って」と訴える。ことし6月、新型コロナウイルスの感染拡大で卒業式を開催できなかった全米の高校生に向けて発した7分間のスピーチでも世界を変える決め手は優しさだと強調した。

 コロナ危機でニュージーランドのアーダーン首相や米ニューヨーク州のクオモ知事も「寛容さと思いやり」を呼び掛けた。世界各地で社会の分断が深まっているように見える今、互いの違いを認めて手を取り合うことが大切だというガガさんの言葉を思い出す。

 

(いいだ・かおり NHKおはよう日本部チーフ・プロデューサー)

 

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