取材ノート
ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。
女性差別反対活動続ける作家・北原みのりさん/「声を上げることが表現者の責任」(中川 聡子)2020年4月
3月8日は、女性の地位向上や差別撤廃を目指すため、国連が定めた記念日「国際女性デー」だ。世界中で女性差別に反対するデモや集会が行われる。
今年の女性デー当日、新聞社やウェブメディアなど20社近くが日本の男女格差を考える企画やジェンダー・フェミニズムに関連する記事を大きく展開した。女性記者が社を横断してネットワークを築き、各々の社内で企画を通して掲載にこぎつけたものだ。ここで、各紙がこぞって取り上げたのが、作家の北原みのりさんだった。
■「フラワーデモ」呼びかけ人に
3月8日には、昨年3月に相次いで報道された性犯罪無罪判決をきっかけに、同4月に東京で始まった性暴力への抗議運動「フラワーデモ」が47都道府県で一斉に行われることになっていた(新型肺炎の影響で実施を見送った地域もあった)。北原さんは、最初にデモをツイッターなどで呼びかけた一人だ。「#MeTooの声は、#With Youがなければ、上げられない」。被害者への信頼と連帯を示すシンボルとして、花を携えた。街頭で人々が寄り添い、自らの性被害を語り、痛みを分かち合う、かつてない市民運動となった。
1996年にセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を設立した経営者でもある。女性が主体的に、安全に性を楽しむための商品開発を手がける。しかし女性が性を語ることに、脅迫やインターネット上での誹謗中傷は絶えない。私は昨年1月、北原さんや他の女性議員らに下着や化粧品などを送りつける被害が相次いだことを報道した。翌2月、被害者7人が開いた記者会見で、北原さんはこう語った。「(最初に被害を公表した村上聡子・北九州市議を)一人にさせてはいけない。物を言えば、多くの人が嫌がらせを経験する。黙っていてはいけない、それが表現者の責任だと思った」。一貫して、「#With You」を体現してきた人である。
■性暴力、女性記者も無縁ではない
報道に従事する女性たちにも、心を寄せていただいている。今、2007年に長崎市幹部から取材中に性暴力を受けた女性記者が、市に損害賠償と謝罪を求め訴訟を起こし闘っている。全国の新聞労組が加盟する日本新聞労働組合連合(新聞労連)が訴訟を支援しており、私はその役員の一人だ。昨年11月、労連は長崎で北原さんを招いたシンポジウムを開催。翌日にはフラワーデモを実施し、私は北原さんのメッセージを代読した。
「さまざまな地域で被害者の声を聞く過程で突きつけられたのは、私たちの声を届けてくださる報道に従事する女性たちもまた、性暴力と決して無縁ではない事実でした。権力を監視する立場であっても、職場での性差別に苦しめられ、声を上げられず、悔しい思いをかみしめている現実でした」。そう読み上げたとき、封印していた記憶の蓋が開くような感覚に襲われ、しばらく声を詰まらせてしまった。
新聞社は男性社会だ。性暴力やハラスメント、男女格差に関する報道に上司の理解を得られず、苦しむ記者も少なくない。女性デーの報道で連携した記者たちの根底にも「#With You」があった、と思う。つながることで、抗議の声を上げよう。性差別にもう黙らない、それが報道の責任だ—。この1年、計り知れないほど多くのことを、北原さんに学んだ。心から、感謝を申し上げたい。
(なかがわ・さとこ 毎日新聞社統合デジタル取材センター)