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トランプ暗黒時代 闘う米ジャーナリストたち(団長:杉田弘毅)2017年9月

 

思っていたより皆平穏。そんな印象の1週間だった。何しろCNNは「フェイクニュース機関」のレッテルが貼られ、「ウソ」だって支持者が喜んでくれればOK、といわんばかりのワシントンである。ジャーナリストたちは絶望の中にあるのかと思いきや、たくましく闘っていた。

 

トランプ時代とはこうなのかと慨嘆したのが、初日に会った白人の権利擁護を唱えるジャレッド・テイラー氏だ。人種ごとの相違を無視する政治・社会制度に反対する「人種リアリスト」を自称する。バージニア州シャーロッツビルの人種衝突、NFL黒人選手の国歌斉唱時の抗議など、人種問題が燃えさかっていた。

 

「米国では何が起きても白人のせいにされる。黒人の非を少しでも責めれば、総攻撃を受ける」。白人の嘆き節に始まり、「白人が優勢な地位を黒人や中南米系に奪われるのは耐えられない」「白人と黒人は一緒に住むべきでない。不快感が募る」とあからさまだ。こんな時代錯誤を、オンレコのインタビューで臆せず語る知識人がいただろうか。この白人主義がトランプ支持者のひとつの特徴であり、現実のアメリカなのだ。

 

さて、その白人とは「欧州的でキリスト教徒」との説明だった。まぎれもない民族主義である。日本人は白人でないが、「白人らしさ」を持つという。そういえば、半世紀以上前の人種差別時代に日本人は特別に白人の側に扱われた。遠い昔が世界の首都でよみがえっている。

 

メディアの方は思考錯誤のただ中にいる。トランプ氏は実は、伝統メディアを大事にすると聞いた。オバマ時代よりもその傾向があるという。ツイッター以外に、トランプ氏はコンピューターに向かわない。ホワイトハウスの主はアナログ人間なのだろう。だからリークも多く、特ダネも生まれる。

 

そうはいっても、ワシントンの1日を動かすのは「ポリティコ」「アクシオス」といったデジタルメディアだ。「ポリティコ」のプレイブックはワシントンで働く人の必読。編集者の1人ダニエル・リップマン記者は毎朝3時半に起きて、6時半に内幕情報やその日の見通しを知らせる。それを読んで人々がオフィスに向かって仕事をするのだから、まさにワシントンを操っている感覚だろう。

 

27歳のリップマン記者はデジタルマインドという言葉を繰り返した。改めてその定義は?と聞くと、「速報とビジュアル重視」との答え。それなら日本メディアも既にやっている。やっぱり世界が読みたがるワシントン・コンテンツゆえに、デジタルも成功しやすい。

 

時差ぼけの頭にジョン・デンバーのメロディーが何度も浮かんだ。「オールモスト・ヘブン」で始まる「カントリー・ロード」(故郷に帰りたい)だ。あふれる陽光、好き勝手に生きる人々。暗黒のトランプ時代でも、アメリカが依然「天国」のように輝いてみえるのはなぜだろうか。

 

(共同通信社論説委員長)

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