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南相馬  若い世代 復興の大きな力に(福島民友新聞社 渡辺久男)2018年3月

 

東京電力福島第1原発20㌔圏内の福島県南相馬市小高区と原町区の一部。市内ではもっとも遅く、避難指示が2016年7月に解除された。市によると、今年1月現在で2818人が生活している。住民の帰還も徐々に進んでいるが、商業施設や医療・福祉施設など、整備は進めているものの不足は否めない。

 

小高区では17年4月に市立小、中学校が再開し、実業高校2校が統合した県立小高産業技術高が開校。若い世代が地域に増え、活気が戻ってきたように感じる。ほかの原発事故被災自治体と比較して考えてみると、若い世代の活力は、復興に向け大きな力になると感じる。

 

同校の校歌の作詞を担当した、芥川賞作家の柳美里氏(49)。17年7月に原町区から小高区に転居した柳氏は、転居先の住宅兼倉庫で18年中に書店と劇場の開業を目指している。「高校生たちが帰りの電車を待つ間、時間つぶしができる場所が小高にはほとんどない。その生徒たちのためにできることが書店だった」と明かす。また、劇団出身でもある柳氏は「小高は福島第1原発から20㌔圏内で警戒区域というレッテルが貼られた場所。劇場をきっかけに人を呼び込めれば」と願う。

 

震災・原発事故発生から2回目となった今年1月の市長選は、震災・原発事故発生当時の市長で、政府の原発再稼働路線を厳しく批判してきた桜井勝延氏(62)と、震災当時、市の経済部長だった門馬和夫氏(64)の一騎打ちとなった。ともに「脱原発」のスタンスで、子育て支援政策の拡充など政策の方向性もほぼ一致していたが、201票差で門馬氏が競り勝った。門馬氏が掲げた「対立から対話」の姿勢に、有権者は残された復興・創生期間での復興のさらなる加速と地域の発展へ期待を寄せたのだろう。

 

南相馬市の復興の進捗はほかの自治体と比べてまだまだかもしれない。しかし、いつまでも「被災地」とくくられる時期からは徐々に脱してきているように感じるのだ。

 

(わたなべ・ひさお 浪江支局長・相双支社)

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