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川内村 ワイン造りで次のステージへ(福島民報社 須藤茂俊)2018年3月

東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から丸7年を迎える福島県川内村は「復旧・復興から継承・創生へ」を掲げ、村づくりに取り組んでいる。新たな農業・産業の振興を目指し、2016年から進めているワイン醸造事業が注目される。

 

村は原発事故後の新たな農業のあり方を探る中で、付加価値の高い農作物の栽培、6次化商品の開発につながるワイン醸造に注目。震災前、畜産業が盛んだった北西部の川内村上川内字大平の高台にワイン醸造用ブドウ栽培の農地を整備した。16年、一般社団法人「日本葡萄酒革新協会」の指導で地域住民らが「高田島ワインぶどう研究会」を設立し、ブドウ栽培をスタートした。これまで約2・7㌶の農地に1万本近い苗を植栽した。

 

昨年8月にはワイン造りを本格化させるため村出資によるワイン醸造会社を設立した。今後はブドウ畑を現在の約2倍の広さに拡大し、隣接地に醸造施設や貯蔵施設を整備する方針で、20年の東京五輪・パラリンピックに合わせて川内産ワインを売り出すことを目指している。村は観光客が増えることも期待しており、将来的には宿泊施設やレストランを設けることも視野に入れている。

 

川内村は原発事故による全村避難後、12年1月、遠藤雄幸村長が帰村宣言し、同年4月に役場機能を避難先の郡山市から村内に戻した。現在、除染や社会基盤の復旧、整備がほぼ終わり、今年2月1日現在、約2700人の人口のうち、約2200人が村内での生活を再開している。帰還率は8割を超えたが、20代から40代の子育て世代とその子どもらの帰還が進まないなどの課題もある。村はワイン醸造事業を進めることで、ブドウ栽培やワイン造りに興味を持つ人が村内に定住し、交流人口が拡大することを目指している。

 

震災と原発事故後、いち早く古里に戻り、社会基盤の整備をほぼ完了させた川内村。復旧・復興の次のステージを見据えたワイン醸造事業が、人口減少期を迎えている全国の地域づくりのモデルになることを期待したい。

 

(すどう・しげとし 双葉南支局長兼いわき支社報道部副部長)

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