ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


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取材も長期化 応援頼りから自立的体制へ(東日本放送 加藤昌宏)2012年3月

震災から1年がたち、被災地のがれきは一見片付いているように見える。しかし、多くは仮置き場に移動しただけであり、処分を引き受けてくれる東北以外の自治たちは少ないのが現実だ。まだ、被災地から離れた地域では時間とともに関心が薄れ、救護ボランティアの数も激減している。そんな中、延長されていた被災者の失業保険が切れはじめ、地元企業の採用も減少、雇用不安が深刻になっている。

 

被災地の局としてそうした実態を把握し発信するためにどうするか。震災半年を過ぎた頃から始めたのが取材ローラー作戦「被災地は今」だ。放送エリア内をメッシュ状に分割し、地域ごとに担当記者を決めて継続的に深い取材を行う。マスコミの取材地域が沿岸の一部に偏っているという不満に応え、取材の手がなかなか届かなかった沿岸深部、地すべりが深刻な地域もある内陸部を網羅するためだ。しかし、被災地は広く満遍なく取材するのは容易ではない。

 

焦りの中で例年に増して厳しい冬が到来、仮設住宅での孤独死も相次ぐ。被災者の心のケアを行う心療体制が必要だが、対応が追いつかない。

 

震災発生以来、社の災害対策本部を中心に各セクションが力を合わせて苦難を乗り越えてきた。また、全国の系列局から延べ3700人もの応援スタッフが来てくれた。しかし、今後は取材の長期化に伴う自立的な体制が必要になる。津波で沿岸部の情報カメラや送信設備を失い、本社屋も被災したため、被災設備の復旧や電源系統の危険分散、オフィスの防災対策などを図る一方、「3.11プロジェクト」をスタートさせ地域貢献活動を定期的に協議することにした。

 

被災者は私たちにとって宮城コミュニティーの身近な隣人である。被災地に暮らし、地域メディアに携わる私たちは、隣人と地域全体の再生につながる情報を息長く発信する責務がある。正確な一次情報を得るために現場へ通い続け、地域の信頼を得ることが不可欠。そのためにはスタッフが健康であり経営が健全であることも必要だ。長期的な視点を忘れずに力を合わせて被災地の現状を発信していきたい。

 

(かとう・まさひろ 報道制作局長)

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