ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


第10回(フィンランド・デンマーク)エネルギー政策(2013年1月) の記事一覧に戻る

”特効薬”には気をつけよう(井川 陽次郎)2013年1月

 

出発前、今回の取材団のことを聞いた同僚が「フィンランドではビキニ姿で街を歩いている女性を良くみかけるらしい。夏のことだけど」と言い出した。これがいけない。

 

ヘルシンキの街を歩きながら、この言葉を思い出した。気温は氷点下だろう。寒い。ビキニどころか、スカート姿の女性さえ見当たらない。みんな厚着だ。「でも夏はビキニなんだろうなぁ、あの娘も、この娘も、もしかしたら……」。ろくでもない。

 

思い込み、とはやっかいなものだ。取材団の目的であるエネルギー問題でも、フィンランドは単純に「原子力エネルギー利用の推進国」と考えていた。新規の原子炉を増設中だし、各国が悩む使用済み燃料の最終処分も決着をつけたのだから。わかりやすい。

 

現地で取材すると、当然ながら、そう単純なものではない。建設中の原子炉は制御系が先進的過ぎて規制当局から注文がつき、なかなか完工に至らない。使用済み核燃料の最終処分場も、隣接する原発以外のものについてはイヤだ、との異論が地元にある。規制当局は国民に信頼されているというが、過去の委員長が隣国ロシアの原子力企業に天下りして批判の声が出ていた。連立与党の「緑の党」は、現状の原発は容認しているものの、これ以上の増設にはノー。ややこしい。

 

次の訪問国デンマークでも、日本でよく言われる「環境先進国」「風力発電で成功した国」との形容が単純には当てはまらないことが現地で話を聞いてよくわかった。ほかならぬデンマーク人からして自嘲的なのだ。「デンマーク人はやっかいなものが見えなければそれでいいと思う。だから、以前はゴミを海にどんどん捨てていた」。ゴミ発電の施設では出てきた灰を隣国ノルウェーで処分。風力発電は風車製造の中核企業が経営危機で工場閉鎖による大量解雇が起きていた。風力発電は基幹産業のはずだが、政府は「企業支援はしない」。よくわからない。

 

エネルギー問題で、課題をすぱっと解決できる単純明快な方法はない。そんな方法がある、と言い募る輩はむしろ怪しい。少なくともフィンランドとデンマークの例を持ち出して、特効薬だぞ、と思い込ませようとする相手には免疫ができた。勉強になりました。

 

(読売新聞東京本社論説委員)

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