2024年03月21日 16:00 〜 17:30 9階会見場
「働く人材クライシス」(7) 小島美里 NPO法人暮らしネット・えん代表理事

会見メモ

高齢者・障がい者の支援事業などを展開するNPO法人暮らしネット・えんの代表理事で、「ケア社会をつくる会」世話人を務める。

訪問介護ヘルパーの平均年齢は54.5歳だが「現場の実感としてはもっと高齢」「70歳を超え辞めたいという声も上がるが引き留めている」。

「ケアプランに示された訪問回数も満たせず、最低限必要とされるおむつ交換3回すら満たせない。制度的な高齢者ネグレクトが起きている」。

統計からだけでは見えてこない訪問介護現場の人手不足の実態を語った。

訪問介護の基本報酬の引き下げに関しては、高収益をあげているのは大規模事業所やサービス付き高齢者向け住宅などであり、地域型事業所は赤字構造にあると強調。「大手が受けない低報酬の生活援助を担っている人々を見殺しにしていいのか」と即時撤回を求めた。

 

司会 小林伸年 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

訪問介護軽視と怒り/「基本報酬下げ撤回を」

吉田 ありさ (日本経済新聞社編集委員)

 新型コロナウイルスの5類移行後は業界を超えた人材獲得競争が加速するなか、介護事業所にとって2024年の介護報酬改定で最大の驚きは訪問介護の「基本報酬」引き下げだった。訪問介護の利益率は高いため基本報酬を下げ、人手不足は職員の処遇改善加算で対応すると決めた厚労省に対し、中小の介護事業所から怒りの声が上がっている。介護保険導入前から埼玉県新座市で在宅介護事業を手がけてきたNPO法人暮らしネット・えんの小島美里代表理事は「1日も早く基本報酬の引き下げ撤回を」と記者会見で訴えた。

 処遇改善加算はヘルパーの賃金引き上げにつながる一方、訪問介護の基本報酬の減額で事業所が赤字となり休廃業すれば「雨の日も雪の日も高齢者の自宅を回る訪問ヘルパーが地域から消える」。ヘルパーの高齢化が進むなか、新規ヘルパーは体力的に楽なサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)併設型事業所に流れがちと危機感を示し、「サ高住併設型が在宅介護のスタンダード(基準)なのか」と厚労省担当者に詰め寄ったエピソードを紹介した。

 訪問介護の利益率が高いのは大手事業所やサ高住併設型が高収益なためで、中小事業所中心に全体の4割近くが赤字という。小島氏は「大手は(低報酬の生活援助などの)在宅高齢者を断っており、そうした人々を中小が引き受けている。ヘルパーが一軒一軒回る訪問介護は効率が悪くて当然」と高齢者の自宅暮らしを支える貢献度を勘案するよう訴えた。

 団塊世代の高齢化で終末期も自宅で過ごす人の急増が見込まれ、小島氏は「終末期の高齢者は量的には医療より介護が必要」と強調。このまま訪問介護の報酬を抑制すれば自費でサービスを確保できない低所得の在宅高齢者が介護難民化し、その家族の介護離職へと問題は広がると警鐘を鳴らし、対策として介護費用の公費割合の引き上げを提唱した。


ゲスト / Guest

  • 小島美里

    特定非営利活動法人暮らしネット・えん代表理事

研究テーマ:働く人材クライシス

研究会回数:7

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