2024年03月06日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「中国で何が起きているのか」(9) 加茂具樹・慶應義塾大学教授

会見メモ

司会 高橋哲史 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)


会見リポート

習近平「一強」の形成過程と不確実性

伊集院 敦 (日本経済研究センター首席研究員)

 中国の全国人民代表大会(全人代)は共産党の決定を追認するだけのゴム印と揶揄されながらも、そのプロセスはそれなりに重視されてきた。今年はコロナ禍明けにもかかわらず以前より会期が短縮され、恒例の首相記者会見も見送られた。市場や世界との重要なコミュニケーションの機会が失われた。

 一時は民主化への期待もあった中国政治はなぜ変質し、今日のような習近平「一強」体制に至ったのか。毛沢東の死後は集団指導体制に向かい、改革開放政策と相まって「制度化」が進むように見えた中国政治の「逆走」。全人代の開幕直後、「流動する中国政治」というタイトルで会見した加茂教授が特に重視したのは、中国政治を支える政治エリートたちが、なぜ権力共有のかたちの変更を許したのかという問いである。

 答は当事者に聞かなければ分からない面もあるが、ヒントとして紹介されたのが、習近平政権が提起した「総体国家安全観」という概念だ。軍事だけでなく非伝統的安全保障を包含した安全観で、カラー革命への危惧や治安重視といった特徴がある。

 胡錦濤・前政権の後期に現地駐在記者として取材した経験に照らすと、当時の中国は汚職や環境問題などをめぐりデモが頻発し、権力エリートの間では体制維持目的の改革のため強い政権を求める機運があった。集権化の素地はその頃からあったのだろう。最高指導者になった習近平氏はルール変更を重ねて一強体制を築くが、腐敗撲滅に名を借りた政敵の打倒やハイテクによる監視などの手段を得たことも要因ではないか。

 個人独裁は一党支配以上に予測が難しく、加茂教授は不確実性を高める中国政治の今後に懸念を示した。権力継承はどうするのか。上意下達の動員政治は政策面でどんな結末をもたらすのか。民主化の後退は中国に限った話ではないが、隣の大国がもたらす影響はあまりにも大きい。


ゲスト / Guest

  • 加茂具樹 / Tomoki KAMO

    慶應義塾大学教授 / Professor, KEIO University

研究テーマ:中国で何が起きているのか

研究会回数:9

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