2023年09月06日 13:00 〜 14:30 10階ホール
「中東和平合意から30年」立山良司・防衛大学校名誉教授、池田明史・東洋英和女学院大学名誉教授

会見メモ

1993年9月13日にイスラエルのラビン首相とパレスチナ解放機構のアラファト議長が、ホワイトハウスでクリントン米大統領の立ち会いのもと、パレスチナ暫定自治合意を結んでから30年となる。

防衛大学校名誉教授の立山良司さん(写真1枚目)と東洋英和女学院大学名誉教授の池田明史さん(同2枚目)がイスラエル・パレスチナ問題の現状や中東和平プロセスの歴史的な総括を話した。

 

司会 出川展恒 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

展望見えぬ中東和平

田中 祥彦 (北海道新聞社論説委員)

 イスラエルのラビン首相とパレスチナ解放機構のアラファト議長が米ホワイトハウスでクリントン大統領の立ち会いの下、パレスチナ暫定自治合意(オスロ合意)を結んでから30年。2国家共存の実現に向けて高まった期待は今や見る影もない。節目を前に開かれた共同会見は、長年中東和平問題に取り組む二人の研究者の無念がにじむものとなった。

 なぜ合意は破綻したのか。占領国と被占領者という構造的な非対称に要因を見いだしたのは立山名誉教授だ。交渉に限らず、自治区の線引き、経済、治安体制などにおいてイスラエルが主導権を握ったことが自治体制の行き詰まりを招いたとみる。

 池田名誉教授は暫定自治の始動と最終的地位の交渉を二段階に分けた構造の跛行性に着目した。例えばイスラエル側において、2国家共存の合理性と占領地からの撤退に納得できない感情の折り合いがつかないにもかかわらず、交渉が進めば問題が解決すると錯覚したという。

 二人がそろって指摘したのは国際社会の不十分な支援や関与のあり方だ。「占領地の不満と国際社会の合意に対する評価にはギャップがあった」とする池田教授の言葉は重い。

 イスラエルが右傾化し、パレスチナ側で対立軸が錯綜する中、いかに今後の展望を見いだすか。立山教授は入植地問題などを国際法廷で追及するなど、問題意識の共有化を訴えた。アラブ首長国連邦などと関係正常化で合意した「アブラハム合意」の拡大に活路の可能性を見いだす池田教授の視座も興味深い。

 会見冒頭、明るい展望はないとした両氏だが、オスロ合意そのものを否定する言葉はなかった。「合意がなければ事態はより深刻だった」と立山教授。それは経済的底上げや一部の国交正常化の動きだけが理由ではあるまい。相互承認という画期的合意が解決への第一歩となる。その意義が失われることはないのだろう。


ゲスト / Guest

  • 立山良司 / Ryoji TATEYAMA

    防衛大学校名誉教授 / professor emeritus, National Defense Academy

  • 池田明史 / Akifumi IKEDA

    東洋英和女学院大学名誉教授 / professor emeritus, Toyo Eiwa University

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