2023年03月16日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「日本の安全保障を問う」(9) 黒江哲郎・元防衛事務次官

会見メモ

2015年5月から2017年7月まで防衛事務次官を務めた黒江哲郎さんが「転換するわが国の安全保障政策~直面するリスクと対応」と題し、登壇。国家安全保障戦略など3文書で戦略転換を図った背景を地政学的挑戦と国際社会のガバナンスの低下の2点から解説するとともに、日本がとるべき対応、残された課題について話した。

 

司会 榊原智 日本記者クラブ企画委員(産経新聞社)

 

 


会見リポート

核の傘強化へ議論呼びかけ

藤田 直央 (朝日新聞社編集委員)

○○省の元幹部、と言っても様々だ。長年勤めた役所を応援する人、苦言を呈する人。黒江氏はどちらでもなく、進化していた。

 防衛官僚当時を含め「このくらい展望のない国際情勢は初めて」と述べ、昨年末に政府がまとめた国家安全保障戦略など安保3文書について、なぜ必要かから語り始めた。

 中国について、十数億の民を抱え発展し続けるために強引に振る舞うのは「習近平体制の一過性でなく構造的なもので、日本の国力全体を使って対応しないといけない」。

 ロシアのウクライナ侵略には、「独裁者に認識を誤らせないような防衛力を持つという教訓がある」。

 冷戦後に孤立しミサイル開発を進めた北朝鮮に対応するには、「反撃能力を持たないといけない」。

 かつて国論を割った安保法制の審議で担当局長として答弁していた頃の丁寧さはそのままに、自分の言葉を交えて簡要に説いていく。

 「外務省の人間ではないのでここを宣伝しても……」と言いながら、国家安保戦略で外交を強調していることにも言及。政府の有識者会議に参加した蓄積もふまえ、防衛にとどまらない視点から話していた。

 国家安保戦略から踏み込んだ発言も。「非核三原則を堅持する」とした点に対し、「ロシアが核で威嚇している中で国民の不安感払拭に十分か」と指摘。核兵器を「持ち込ませず」でいいのか、米国の核の傘を強化すべく議論が必要との趣旨だ。

 一方でこうも述べた。「核兵器禁止条約にオブザーバー参加できないか。唯一の戦争被爆国として核兵器をなくす方向に我々の軸足はあると示すためで、矛盾しません」

 かつて根回しで頭を下げすぎてギックリ腰になり、毎晩きゃりーぱみゅぱみゅを聴いてつらい国会答弁をしのいだ黒江氏。南スーダンPKO日報問題で次官を引責辞任してから6年になるが、すべてを糧にしたようなよどみない1時間半だった。今後も議論の喚起を期待したい。 


ゲスト / Guest

  • 黒江哲郎 / Tetsuro KUROE

    元防衛事務次官 / Former Administrative Vice-Minister of Defense

研究テーマ:日本の安全保障を問う

研究会回数:9

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