2023年02月22日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「3.11から12年」(5) 津波被災地の経済 柳井雅也・東北学院大学教授

会見メモ

経済地理学が専門で、震災後から被災地で聞き取り調査を行うなど復興の研究を続ける東北学院大学教授の柳井雅也さんが登壇。この間の調査データ、個別の事例などをもとに、津波被災地の産業経済の復興状況と課題について解説した。

 

司会 坪井ゆづる 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞社)


会見リポート

見えない産業の復興/休廃業の議論が必須

加藤 裕則 (朝日新聞社経済部)

 「本当に回復したと呼べるのか。みなさんと一緒に考えたい」。会見の冒頭、柳井氏は被災地の中核的な産業である水産加工業に関するデータを示しながら、記者にこんな問題を投げかけた。

 示したデータは宮城県によるアンケート結果(2021年)で、「売上高が80%以上回復」とした企業が53%だった。これらの数字から行政当局は「生産体制の復旧はおおむね完了」としているという。

 柳井氏は「80~100%」を回復と呼ぶことに疑問を呈しながら、記者の質問に答える形で「この8割でオーケーにするのか。もしくはもっと抜本的に産業クラスター(集積)としての復活をゴールにするのか。(産業集積がゴールであれば)こんな分析にはならない」と述べ、行政当局の目標の設定と現状認識が不十分である可能性に言及した。

 さらに、帝国データバンクが2022年3月に公表した「【震災から11年】『東日本大震災関連倒産』動向調査」も提示。被災地の5千社のうち35.2%の企業が「休廃業・倒産」だった。柳井氏は宮城県のデータを振り返りながら、「(行政のアンケートでは)休廃業した分は事業活動の数字として統計に上がってこない。そうすると事業継続率は高くなる。統計のトリックがあって、不満に思っていた」と述べ、「休廃業のところを議論しないと、本当の姿が見えない」と政府に休廃業率を考慮したデータ作りを求めた。

 柳井氏は「希望」にも触れた。宮城県石巻市では水産加工会社など10社がタッグを組み、営業活動を一緒にやったり、レトルト加工などそれぞれの得意分野で助け合ったりしているケースなどを紹介した。

 被災地の産業は先進的な取り組みも着実に起きている半面、行政が示すデータとは違って今も様々な課題を抱えていることがよくわかった1時間半だった。


ゲスト / Guest

  • 柳井雅也 / Masaya YANAI

    東北学院大学教授

研究テーマ:3.11から12年

研究会回数:5

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