2022年11月16日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「日本の安全保障を問う」(4) 武居智久・元海上幕僚長

会見メモ

2014年から16年まで海上幕僚長を務めた武居智久さんが登壇。アメリカ軍や日本の自衛隊の各種装備などの状況も踏まえ、台湾有事に備えた防衛強化の必要性を話した。

 

司会 榊原智 日本記者クラブ企画委員(産経新聞)


会見リポート

政治的妥当性と軍事的合理性の間で

豊田 洋一 (東京新聞論説主幹)

 中国が台湾を武力統一する「台湾有事」は、もはや起きるか否かでなく「習近平総書記がいつ、機は熟したと判断するか」という段階に入ったと指摘。日本の防衛力整備を具体的な事態を想定しない「中性的」なものから、台湾や尖閣諸島など具体的な有事を想定した「脅威対抗型」に切り替える必要性を説いた。

 今後5年間は部品や弾薬の備蓄、国内での修理基盤の強化など即応態勢の改善に努め、6年目以降は2032年に必要な防衛力を完成させることを目標に、防衛力を抜本強化する必要があるとも強調した。

 14年から16年まで海上幕僚長を務め、中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル開発など、アジア・太平洋での緊張の高まりを日々、肌で感じた指揮官ならではの指摘だろう。

 中国の習近平体制が異例の3期目に入り、核心的利益とする台湾の武力統一も放棄していないことを公言する状況だ。台湾有事の場合、日本の自衛隊は何をすべきか、現行法の下でどこまでできるのか。また、米軍に対してどんな支援や協力ができるのか。そのために必要な装備と予算を事前に十分検討し、必要な措置を講じておくのは当然ではある。

 気になったのは武居氏が「防衛政策は政治的な妥当性が軍事的な合理性に優先する状況が続き」、国際情勢の変化に安保政策を適応させる機会を逸してきたと指摘した点だ。

 歴代内閣は戦争放棄と戦力不保持の憲法九条の下、抑制的な防衛力の整備に努めてきた。政治的妥当性を重視したわけで、軍事的合理性を優先させれば軍備増強が当然の帰結となり「安全保障のジレンマ」に陥るのでは、との疑問も生じる。

 年末に予定される安全保障3文書改定では、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有など軍事的合理性に重きを置くかのような議論が活発だが、政治的妥当性がなお重要であることも再確認しておく必要があるだろう。


ゲスト / Guest

  • 武居智久 / Tomohisa TAKEI

    元海上幕僚長

研究テーマ:日本の安全保障を問う

研究会回数:4

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