2019年10月18日 14:00 〜 15:00 10階ホール
「<表現の不自由展・その後>のその後」(1) 山梨俊夫・あいちトリエンナーレのあり方検証委員会座長

会見メモ

「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」を巡る一連の問題を多角的に検証する企画「<表現の不自由展・その後>のその後」の第1回ゲストとして、山梨俊夫・国立国際美術館長が登壇した。

 

山梨氏は愛知県が設置した「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会(現検討委員会)」の座長。検証委員会がまとめた中間報告の内容を中心に、「表現の不自由展・その後」の中止、再開に至った経緯を解説するとともに、美術に携わってきた一個人として、企画展や交付金不交付問題についての考えを語った。

山梨氏は一連の騒動の背景について「日本における美術の変容がある」と指摘。「若い作家を中心に社会との関わり方を主題とした美術を開拓するようになっており、表現の自由、芸術の自由、多様性をどう保つかを常に意識することが重要になってきている」と解説した。

また交付金不交付問題については「文化の自立性を守るためにも、『金は出すが口は出さない』という形をいかに確立するかを考える必要がある」と強調した。

 

司会 川上高志 日本記者クラブ企画委員(共同通信) 

 

「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」(2019年9月25日)

 


会見リポート

文化庁の補助金不交付に反対/美術館・芸術祭にも自主性必要

竹田 直人 (毎日新聞社中部報道センター)

 トンガった現代美術のアーティストたちも「聞いているだけで心が落ち着く」と評する山梨俊夫・国立国際美術館館長の声だが、飛び出す言葉はなかなか骨太だ。この日の会見でも語り口こそ穏やかだったが、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」への補助金不交付を決めた文化庁を、「個人としても、国立美術館の館長としても反対だ」と一刀両断した。

 元従軍慰安婦を題材にした「平和の少女像」などへの抗議電話が殺到する「電凸」を受け、トリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」が開幕(8月1日)から3日で中止に追い込まれた問題。不自由展中止に抗議した国内外の出展作家15組が作品を辞退・変更する事態に発展していった。そんな中、山梨館長は愛知県が設置した「トリエンナーレのあり方検証委員会(現・検討委員会)」の座長に就任した。

 検証委は「(不自由展は)条件が整い次第、速やかに再開すべき」とした中間報告を公表。不自由展は10月8日に再開し、辞退作品も復帰。トリエンナーレは同月14日、開幕時と同じ完全な形で閉幕した。

 山梨館長は会見で、検証作業の中で気付いたこととして「美術の変容」を挙げた。日本の美術は長らく、政治性や社会性から切り離されていた。しかし、1980年代以降、アーティストたちは「美しいものを作るより、作品を通して社会とどう関わっていくか」に重点を置くようになったという。この結果、平和の少女像のように、社会の中のある一定の層と〝衝突〟する作品も生まれるようになった。

 「文化、芸術の独立を守るためにも議論を呼ぶ作品を展示する方法を独自に決め、最後まで責任を取る。美術館や芸術祭の側にも自主性が求められている」。こう語る山梨館長の声はやはり落ち着いていたが、強い信念も感じられた。


ゲスト / Guest

  • 山梨 俊夫 / Toshio Yamanashi

    日本 / Japan

    独立行政法人国立美術館 国立国際美術館長 / director,the national museum of art,osaka

研究テーマ:「<表現の不自由展・その後>のその後」

研究会回数:1

ページのTOPへ