2018年10月16日 14:00 〜 15:30 9階会見場
「朝鮮半島の今を知る」(17)北朝鮮経済の現状 三村光弘・環日本海経済研究所主任研究員

会見メモ

 

 豊富な現地視察にもとづき、経済から北朝鮮を読み解いた。

「<米国の敵>から解放され<普通の発展途上国>になろうとしている。非核化は本気だ」

「いまは、市場での取引はあるが生産手段の私有が認められていない。<市場経済>とは言えずく商品経済>の段階」

「これまで経済は政治の従属変数だったが、今後は独立変数になる」

「日本は周辺国とともに後見人となり、経済成長を支えるべき」

 との見方を披露した。

 

 

環日本海経済研究所(ERINA) 

三村氏紹介ページ

 

司会 五味洋治 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)

 


会見リポート

「米国の敵」から「普通の発展途上国」へ

水沼 啓子 (産経新聞社外信部次長)

 三村光弘氏は約40回に及ぶ訪朝経験を踏まえ、表向きは「社会主義計画経済」を標榜する北朝鮮経済の実態を解説。さらに核開発と経済建設という「並進路線」の看板を下ろした北朝鮮が米国との関係改善を経て非核化した後、経済中心の時代になると展望する。

 三村氏は「ソ連が崩壊した1990年代以降、配給という形で国民生活を支える力を失った。国民は自分たちの才覚でお金を稼がなくてはいけなくなった。金正恩時代に入り、実質的な自営業や個人ビジネスが黙認の下で育っている」と北朝鮮の実情を紹介。「これらを公的に認め、保護しながら、税金も取り、マクロ経済政策を運営していくといった経済にいつ移行するかが今の北朝鮮にとって重要な問題だ」と唱える。

 ただ「南北が分断している現在、北朝鮮が経済的に大きな失敗をすると、韓国に吸収統一される可能性があるので、大胆な政策変更をするのは難しい状態が続いている」という。

 一方、三村氏は非核化に舵を切った北朝鮮が条件さえ整えば核を本気で放棄すると主張。その上で「北朝鮮にとって経済的な面から核を捨てるインセンティブになりうるのは、米国や国連安保理の対北制裁から解き放たれ、『普通の発展途上国』として経済建設に邁進できるさまざまな環境が用意されることだ」と分析する。さらに「その中には、恐らく日本との国交正常化後の経済協力といったこともあるだろう。北朝鮮経済をめぐる大きなパラダイムの転換は早ければここ数年で実現するかもしれない」と予測した。

 北朝鮮が非核化し、米国の独自制裁から解放されるということには大きな意味があるという。国際通貨基金(IMF)やアジア開発銀行(ADB)などの国際機関に入れるようになり、そうなれば国際的通商や資金調達も可能となるからだ。「非核化後には経済建設のために政策を立案し、調整していく経済中心の時代になるだろう」と展望。他方、そうなると経済の失敗を「米国の悪辣な対北敵視政策のせい」にできなくなり、経済がうまくいかなれなければ政権の正統性に問題が生じる事態を招くかもしれないとも指摘する。

 今後については、「中国やロシア、韓国、日本など周辺国が共同で後見人となり、北朝鮮を良い方向に導いていく時代になる」と予想。日本の役割として「北朝鮮が高度経済成長へテイクオフするときの手助けをして、どの産業をどう発展させていくかといった青写真を作るところから関与していくことが重要だ」と訴えた。


ゲスト / Guest

  • 三村光弘 / Mitsuhiro Mimura

    日本 / Japan

    環日本海経済研究所主任研究員 / Senior Research Fellow, The Economic Research Institute for Northeast Asia

研究テーマ:朝鮮半島の今を知る

研究会回数:17

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