2018年08月22日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「平成とは何だったのか」(9) 人口減少と社会保障 山崎史郎・元厚生労働省社会・援護局長

会見メモ

「人口減少と社会保障」のテーマで、40年におよぶ行政官としての仕事を振り返りながら語った。

人口減少問題については、認識の遅れから後手に回り、対策をとっても効果が出るのは数十年先になるだろうとした。

それまでは、女性、高齢者、団塊ジュニアが働きやすい環境をつくることが重要だとも。

『人口減少と社会保障―孤立と縮小を乗り越える』(2017年、中公新書)

 

司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)


会見リポート

改革の限界を露呈した平成 「全世代型社会保障」構築を

尾﨑 雄  (日本経済新聞出身)

 少子高齢化がもたらす未曽有の人口減少は、雇用政策、まちづくり、家族政策、教育政策、産業政策、地域政策に大きな変化を迫る。山崎史郎氏も認めるところだ。厚生省で高齢者問題を任され、十数年かけて介護保険制度の立案と実施にこぎつけたものの、気が付くと若年層の非正規労働の増大、引きこもりや生活困窮者の問題が現出し、そして、地域は人口減少の荒波に巻き込まれていた。「単身化」の激流が経済社会を変容させ、それが社会保障制度の持続可能性を揺さぶり、家族・雇用・地域の足元を崩すという悪循環を加速してきたのだ。氏は、そのプロセスを的確なグラフや表によって解き明かし、平成時代の社会保障政策の限界を率直に認めて、今後の課題と展望を明らかにした。

 その骨組みは、昨年上梓した中公新書『人口減少と社会保障』に。小塩隆士・一橋大学経済研究所教授によると、同書は「社会保障を全体として把握し、人口減少に制度全体で立ち向かう『総力戦』の方針を打ち立てようとし(中略)、改革の射程を狭義の社会保障にとどまらず、人材やすまい改革、地域組織の再編まで広げている」(『社会保障研究』第132号)。講演はそこに書きもらした本音や心情とその後磨き上げた思索の成果を盛り込んだ決定版だ。内閣府政策統括官としてリーマンショック対応や若年者の雇用問題に取り組み、「年越し派遣村」の出現で制度の限界を知る。厚労官僚きってのヒューマニストらしい。

 社会保障制度における「平成」とは改革の限界を露呈した時代だったとしたら、それを告白するだけでは済まされまい。団塊ジュニア世代が高齢者になる2040年代以降を迎え撃つ「全世代型社会保障」の構築が必要だ。男女が共に能力を発揮して働ける結婚・子育て支援の制度づくりを地方分権によって推進し、社会保障の効率化と多様化を実現、人々の「支え合い」に基づく地域共生社会をベースとする新しい国のかたちをつくることを提示した。「男性が外で働き、専業主婦が家庭を守る」という「大都市集中・過密型」から職住接近で夫も妻も無理なく仕事ができる「地方分散型」への転換だ。それは、変化する社会の全体像を正しく認識すれば可能である。制度知識から入る専門制に偏ったいまの社会保障教育のあり方に反省を促し、社会全体を見る力を養うことの大切さを強調して講演を締めくくった。


ゲスト / Guest

  • 山崎史郎 / Shiro Yamasaki

    日本 / Japan

    元厚生労働省社会・援護局長 / former director-general, the Bureau of Health and Welfare Services for the Persons with Disabilities, Ministry of Health, Labor and Welfare

研究テーマ:平成とは何だったのか

研究会回数:9

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