2016年03月16日 15:00 〜 16:00 10階ホール
イーホル・ハルチェンコ 駐日ウクライナ大使

会見メモ

ロシアのクリミア自治共和国併合(2014.3.18)から2年を機にハルチェンコ駐日ウクライナ大使が会見し、記者の質問に答えた。
司会 脇祐三 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)
通訳 西村好美(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

原則論と現実政治のギャップ

佐藤 親賢 (共同通信社外信部次長)

ウクライナのイーホル・ハルチェンコ駐日大使の会見は、ロシアがウクライナ南部のクリミア半島の編入を一方的に宣言してから2年となる3月18日を前にした16日に行われた。大使はクリミア編入を「ロシアによる一時的な占拠」と表現し、いつか必ず取り戻すという決意を示した。

 

大使は、ウクライナ東部にはロシアに支援された4万人強の軍隊がいると述べ、ロシアはミンスク和平合意をほとんど履行していないと強調した。対ロシア制裁は「効果を挙げている」とし、欧米や日本による経済制裁は続けるべきだと訴えた。

 

だが、国際政治の現実は必ずしもウクライナに有利にはなっていない。クリミア編入で非難を浴びたロシアはG8の枠組みから事実上追放された。ロシアはウクライナ東部でも親ロシア派を支援していると批判され、その後の原油価格急落も相まって財政危機に陥っている。しかしプーチン大統領への支持率は依然として高く、政権基盤は揺らいでいない。ロシアは昨年9月末に開始したシリア空爆により「イスラム国」(IS)と戦う欧米諸国に協調する姿勢を示し、ジュネーブでのシリア和平協議開催にこぎ着けるなど、ウクライナ危機後の国際的孤立を脱却しつつある。反対に、2年前には欧米の支持と同情を集めていたウクライナの主張に対する関心は低下し、ウクライナ国内の政局混迷や改革の歩みの遅れもあって、ウクライナへの支援は広がっていないのが現状だと言わざるを得ない。

 

対ロ制裁に加わっている日本だが、安倍晋三首相はロシアとの北方領土問題進展にも強い意欲を持っており、5月の訪ロとプーチン大統領との非公式首脳会談を調整しているとされる。安倍氏からプーチン氏に伝えてほしいメッセージは何か、と問われてハルチェンコ大使は「ウクライナから出て行け、そして北方領土から出て行け、ということだ」と答えた。しかし、いま日本側に、領土問題でのそれほど明確な姿勢があるかどうか。「国家主権の不可侵性」という原則論と、現実政治との間のギャップを否応なく感じさせられた会見だった。


ゲスト / Guest

  • イーホル・ハルチェンコ / Ihor Kharchenko

    ウクライナ / Ukraine

    駐日大使 / Ambassador to Japan

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