会見リポート
1978年10月09日
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J.K.ガルブレイス・ハーバード大学名誉教授
会見メモ
“不確実性”必ずしも悪くない
ガルブレイス教授にはエコノミストという言葉は似合わない。もっと重厚でかつ広大な知性を感じさせる。2メートルを越す痩身の風貌でのアイロニーをまじえての語りっぷりは、いかにも向っ気が強そうで、辣腕の思想家を想わせる。論理の展開にヨーロッパの深い伝統を感じさせる。
不確実性の時代については、前世紀の“Certainty”の消滅と産業諸国間の諸関係の不安定性、とりわけ貿易問題の予測の困難さが主因であるとする。第二次大戦前までは各国とも国内の不安定を容認し、これにより対外的な安定を確保していたが、この30年の間に国内安定を対外安定に優先させるという国際潮流が定着し、これが諸関係を不安定なものにさせている、という。
そして、この“不安”に拍車をかけているのが米国の誤った経済政策(とりわけ石油輸入策)だ、と確言してはばからない。
それでも最後は「米国には経済学という神話を信奉するエコノミストが多すぎる」が「他に代替策がないという厳しい現実こそが最高の教師」なので、通貨、貿易、所得の問題で「何か別のことをしなければならないという感じが強まっている」と結ぶ。
高い所から見下ろした形でのスピーチを終わると、「記者諸君の志気は大変ひ弱なものなので、座って質問を受けたい」と無表情に語る。
そして、日本の円高については
――日本の国際収支は石油問題を克服しており、一方米国の場合はこれがまだ問題となっている。また、米国の物価水準の高さが日本の輸出品を魅力的にしている。円の対外的イメージはこの反映にすぎない。
日本の不況については、
――たとえちょっと東京へ立ち寄ったものにでも、日本が深刻な不況にある、などということは信じがたい。若い、幸運な世代には“crisis”の誤用が目立つ。現在の世界経済の状況は1930年代の大不況に比較すれば問題にならない。
なお、この昼食会(司会=山内理事)には新聞協会の記者研修プログラムに参加のため来日していたASEAN各国の記者10名を含め140名が参加した。
(日本記者クラブ会報1978年11月10日号6ページから抜粋)
ゲスト / Guest
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J.K.ガルブレイス / JOHN KENNETH GALBRAITH
ハーバード大学名誉教授 / Professor emeritus, of Harvard University