取材ノート
ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。
ユニットごとの処遇見学(中日新聞社教育報道部 芳賀 美幸)2024年12月
「見て見ぬふりは同罪です」。名古屋刑務所の職員棟から受刑者がいる棟に移動するときに、不祥事防止を呼びかける標語が目に入った。職員による受刑者への暴行が問題となった名古屋刑務所に11月、日本記者クラブの視察で訪れた。犯罪傾向が進んだ刑期10年未満の受刑者を収容する同所は、現在700人が受刑生活を送る。罪名は窃盗や詐欺の財産犯、薬物犯が7割を占め、平均入所回数は4回となっている。
問題発覚後、再発防止の一環として、処遇が難しい受刑者がいる棟では、職員が装着型カメラを使用する。職員の指示に対して受刑者が「お前らの指示は聞かない」と抵抗し、職員が「調子に乗るのもたいがいにしろ」と声を荒げる。そんなやり取りに対して、職員はどのような対応をするべきだったか、映像を見ながら事後指導してるという。
また、受刑者の特性に応じた処遇ができていなかったことが問題の一因にあるという反省から、三つのユニットに分けた処遇を導入。高齢者、発達に課題を有する者、薬物依存の者と、特性に応じたプログラムを少人数で実施する。高齢者のユニット(写真)では、受刑者が機能向上トレーニングとして、折り紙の作品を黙々と作っていた。薬物依存のユニットでは、車座になった受刑者が「100万円あったらどう使う?」などのテーマで話し合う様子が見られた。ユニット処遇の導入後、コミュニケーションの機会が少ないことで認知症が急速に進む状況や、発達上の特性がある受刑者が他者と衝突して規律違反を繰り返す状況が改善しつつあるという。
ユニットに所属する受刑者は全体のうち少数にとどまるが、吉弘基成所長は「拘禁刑の導入に向けて、一つのモデルケースになりうる」と強調する。「懲らしめ」から「立ち直り支援」へ。刑務所は生まれ変われるのか。今後も注視していきたい。