ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


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対照的な風景に複雑な思い(倉橋 友和 メ~テレ(名古屋テレビ)報道センター)2024年3月

東京電力福島第一原発

 双葉町の沿岸部で整備が進む産業拠点。去年4月に開業したばかりの浅野撚糸(岐阜・安八町)の真新しい事業所が存在感を放つ。工事費の75%、20億円もの補助金で支援する国と「働く場所を提供したい」という社長の狙いがマッチした。だが地元の新卒採用者5人の中には、双葉町で働くことを家族から反対されたケースも。被災の記憶が色濃く残る親心と、純粋に復興の力になりたい若者の情熱が交錯する。

 双葉駅西側に建ち並ぶ和風モダンな町営住宅。そこに暮らす44人のうち、以前からの双葉町民は19人。30代以下は8人といずれも少数派。ボランティア登録をして高齢者の生活支援などに従事する年配の移住者が多い。また伊澤史朗双葉町長は「2022年8月の(一部)避難指示解除から5年後に町の人口2000人」と目標を掲げるが、1年半が経った現在でも100人ほど。すでに避難先で生活基盤が築かれたため戻りづらくなった人々が多いと聞く。企業誘致が進み働く場所は整いつつあるが、町の85%がいまだ帰還困難区域。時間が止まったような主なき家屋や店舗と、4000人もの作業員らで活気に満ちる原発。対照的な風景を目の当たりにして複雑な感情を抱いた。

 原発構内では、被ばく防止のため顔全体を覆う「全面マスク」が必要なエリアは敷地内のわずか4%。一方で今回の取材後、放射性物質を含む水約5・5トンが漏れ出す事故が発生した。廃炉作業にさらなる緊張感を持ってほしい。

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