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6局防災プロジェクト/垣根越え防災の輪広げる/全局「参加したい」ほぼ即答(浜野 高宏 NHKエンタープライズプロデューサー)2023年3月

 今年も「あの日」がやって来る。東日本大震災はテレビマンにとっても衝撃だった。「もっとできることがあったのでは?」と自問自答を続けてきた。そんな思いが集まったのが「6局防災プロジェクト」だ。

 2020年3月の番組「死者ゼロを目指す~メディアの壁を越えて~」(NHK)がきっかけだった。復興支援番組を担当してきた私(浜野)は友人のディレクター(藤木伸一郎氏)を通じ、フジテレビ「わ・す・れ・な・い」の担当者(濵潤情報制作センター部長 ※当時・宮下佐紀子チーフプロデューサー)を紹介してもらった。「防災にメディアの垣根は必要ない」という考えに共感いただき番組が実現した。NHK、フジテレビ、ヤフー、岩手めんこいテレビ、FMあおぞら(宮城県亘理町)の担当者が震災時に命を救う方法をメディアの枠を超えて議論した。

 収録後、私たちは「次は民放キー局全部集めよう!」と盛り上がった。できなくて当たり前。フジテレビと手分けして民放キー局まわりを始めた。各社からは予想に反して、ほぼ即答で「参加したい」との返事をもらえた。あまり視聴率に結びつかない「防災」だが、局の垣根を越えた協力は、何かを生み出す力になると思っていただけた。2020年秋プロジェクトは本格的に動き出す。

 

映像を互いに無料提供

 コロナまん延で打ち合わせはオンライン。どんな内容にして、誰が何を担当し、キャッチフレーズはどうするか―。全て未知の挑戦だった。毎週の会議では議論が紛糾したこともあったが、全員に「絶対に実現させる」という強い意志があり、内容は徐々に固まっていった。

 決まったテーマは「キオク、ともに未来へ。」。震災の経験を生かし、「首都直下地震」「南海トラフ巨大地震」の際、テレビは何ができるのか考えるもの。震災10年となる2021年3月全ての局で関連番組やニュース企画に共通ロゴをつけて放送。提供可能なアーカイブス映像は各局が無料で提供した。可能なものは無料配信動画サービスTVerで配信した。

 NHKの「あしたの命を守りたい~NHK民放 取材者たちの震災10年~」には、6局の防災担当者が集合。ホワイトボードを使って、今後のコラボのあり方を考えた。MCの伊藤利尋アナウンサー(フジテレビ)には、出演者の意見をぶっつけ本番でまとめてほしいと無茶ぶりをしたが、見事その役を果たしていただいた。

 

各局アナウンサー一堂に

 キャンペーンをお祭り騒ぎで終わらせたくない。6局のアナウンサーは番組のあと、2カ月に1度のペースで専門家を招き勉強会を行ってきた。多い時は100人以上参加。キャンペーンは勉強会とコラボしながら、新たな段階へと進化していく。

 震災11年の際には「#いのちともに守る」をテーマに各局が関連番組を放送。NHK「明日をまもるナビ・スペシャル」では6局のアナウンサーが一堂に集った。さらに22年9月の防災の日前後には「呼びかけキャンペーン」を実施。各局アナウンサーが出演する6本の動画を全局で流す画期的な試みも行った。

 今年は関東大震災100年。キャンペーンを3~9月に実施、「首都直下地震」で何ができるか考える。震災直後からの課題に向き合い、慶應大の大木聖子准教授のサポートを得て多くの人に役立つノウハウを届ける予定だ。今後も取り組みを続け、防災を自分ごとにするきっかけを作っていきたい。様々なメディアの方々とも協力し、防災の輪を広げたいと考えている。

 

はまの・たかひろ▼1990年NHK入局 クローズアップ現代・NHKスペシャルなどを担当 東日本大震災後は復興支援番組「Tomorrow」 NHK防災キャンペーン「いきるスキル」を担当 2021年4月から現職

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