ベテランジャーナリストによるエッセー、日本記者クラブ主催の取材団報告などを掲載しています。


3・11から12年:(2023年3月) の記事一覧に戻る

福島国際研究教育機構/膨らむ期待 見えぬ具体像/7年の研究費総額1千億円(角田 守良 福島民報社編集局次長兼報道部長)2023年3月

 岸田文雄首相は1月23日、通常国会の施政方針演説で「福島国際研究教育機構(F-REI)の整備を政府一丸となって推進し、責任を持って福島の復興、再生に取り組む」と決意を示した。政府主導のF-REIは4月に設立される。創造的復興の中核拠点として地元の期待は大きい。ただ、いまだに具体的な姿がなかなか見えてこないのが現状だ。

 F-REIは産業都市の形成を目指し、世界レベルの研究開発と社会実装、産業化、人材育成を展開する。福島復興再生特別措置法に基づく国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」の柱に位置付けられている。

 

全施設完成は2030年ごろ

 東京電力福島第1原発事故による避難指示が解除された浪江町川添地区に約10ヘクタールの敷地を確保し、2024年度から施設の設計、建設に入る。入居が可能になった建物から使用していくが、全てが完成するのは2030年度ごろとみられる。今年4月からは町内に仮事務所を置き、役員5人と常勤職員53人らが詰める。

 主な研究は①ロボット②農林水産業③エネルギー(カーボンニュートラル)④放射線科学・創薬医療⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信―の5分野となる。日本や世界が抱える課題のうち、県内に整備された実証フィールドなどを有効活用できるテーマを関係省庁が選んだという。初年度は施設が整っていないため、研究を県内外の大学などに外部委託し、徐々に機構が直接行う研究を増やしていく考えだ。最終的には約50の研究グループに国内外から300~500人の研究者が集う規模を想定している。

 研究開発は研究者の長年の試行錯誤が積み重なって、大きな成果を生み出す。中長期にわたる研究費の安定確保が不可欠だ。政府は昨年12月の復興推進会議で、F-REIの第1期中期計画期間(2023~29年度)7年間の研究費総額を1千億円程度と決めた。整備・運営の参考にしている沖縄科学技術大学院大学(OIST)の設立後7年間の約400億円の2・5倍に相当する。従来の国家プロジェクトの規模を上回り、復興庁関係者は「被災地の期待に十分に応え得る相当な水準となった」と自負する。

 

連動した計画「立てられぬ」

 政府は昨年3月にF-REIの基本構想をまとめ、開設準備を本格化させた。理事長予定者に山崎光悦前金沢大学長を指名するなど法人の設立に必要な手続きは進んだ。しかし、活動指針となる中間目標案は設立まで1カ月余りに迫った2月下旬にようやく公表された。年度内に策定し、中間目標を踏まえた中間計画や年次計画は設立後に定めるという。今のところ、ロードマップ(行程表)もイメージしか示されておらず、地元自治体からは戸惑いの声が上がっている。

 県担当者は「F-REIの成果を地域づくりに生かしたいが、事業の行程表が抽象的で、連動した計画を立てられない」と嘆く。人材育成に対する考え方も具体性に欠ける。さらに、数百人の研究者の居住をどのように確保するかも不透明で、政府に早急な対応を求めている。

 内堀雅雄福島県知事は「自治体の枠を超えた人の流れの創出や広域的なまちづくりで浜通り、県内全域に効果を波及させていくことが極めて重要」と注文をつける。創造的復興の実現には、F-REIを核としたネットワークの形成が欠かせないとの見方だ。原発事故発生後、県内に誕生した福島水素エネルギー研究フィールド、福島ロボットテストフィールドなど最先端の研究施設をはじめ、高専や大学などの教育施設、産業界を含めた広域的な連携網を構築できるのか。司令塔としてのF-REIの調整力とリーダーシップを問い続けていきたい。

 

つのだ・もりお▼1991年入社 東京支社編集主任 会津若松支社報道部長 編集局文化部長を経て 2022年4月から現職

ページのTOPへ